ブランドの立ち上げに失敗しないための調査方法「後編」

前編では、調査の具体的な手法について話をしました。
後編では調査データをもとにどのようにマーケティング施策に活かしていくかをお話いたします。

 

ーー定性調査・定量調査それぞれで、どのように調査結果を活用していくのでしょうか

調査は、目的やフェーズに合わせて設計していく必要があるので、ここでは完全に新規の製品を開発する際の例を上げます。製品開発をする際の調査設計のお勧めは下記の流れです。

1. 定量調査によるマーケット・消費者理解

一般的に、デスクリサーチや既存のデータを活用しながら製品開発における仮説を立てますが、消費者にまつわるデータはWEB上に落ちていないことが多いです。

ニッチな商材や、これまで市場にない新しい価値を提供していく場合はなおさらです。まずは商品を出したいカテゴリーに関するデータを整理していくために、簡単な量的調査を行い、ビジネスポテンシャルを整理します。

2. 定性調査によるインサイト理解

消費者へのインタビューや行動の観察を通じて、インサイトを発掘していきます。

1の段階で行う量的調査を通じて、セグメンテーションやターゲティングを仮説ベースで設定し、定性調査を通じて、まだ顕在化されていないニーズ=インサイトを深掘りします。

定性調査内で「このような製品はどうですか?」というコンセプトへの評価を求める場合もありますが、定性調査でコンセプトを決定することは良い方法とは言えません。コンセプトの評価は、3の量的調査で行わないと早とちりな結果に陥る可能性があります。

3. 定量調査によるコンセプトの優先順位決め

本フェーズの定量調査は、1,2の二つの調査を通じて作られたコンセプトの優先順位や方向性を決定するために活用します。

ブランドの観点では自信があるコンセプトでも、ターゲットとなるユーザーがコンセプトを客観的に見た時に全く内容を理解できないケースや、ユーザーの購入意向はあっても、本来ブランドが取りたいポジションを取れないコンセプトになってしまうことは多々あります。

上記のような失敗をする可能性を小さくするため、最後の定量調査を通じて客観的にコンセプトを評価することが大切です。

 

ーー定量調査は具体的にどう活用しますか

上記の通り、定量調査の活用方法は主に二つあります。

一つ目は、ニーズやアイデアを見つけるための消費者やマーケット理解のための調査二つ目は、ある程度固まったコンセプトの方向性を決めていくための調査です。

前者の「ニーズやアイデアを見つけるための消費者やマーケット理解の定量調査」は、先ほど述べた「隠れたインサイトを見つけるための定性調査」よりも前段階で行う調査です。

例えば、乾燥を防ぐボディローションの商品の発売を考えるとき、「乾燥を感じる身体の部位はどこか」や「乾燥を感じる瞬間はいつか」といったアンケート結果を量的に集める調査は、自分達の仮説とは別のところに、消費者のニーズがないかを明らかにする目的で行います。

二つ目の「コンセプトが受け入れられるか確かめるための調査」では、定性調査の結果をもとに改善したコンセプトを複数パターン用意し、「どのコンセプトが最も魅力的に感じるか」という質問を様々な観点から明らかにすることが目的です。

2回目の定量調査の段階では、ビジュアルイメージも用意して、それぞれの世界観が伝わるように調査を行い、どのコンセプトなら市場で勝てるかを確かめます。

 

ーー 一番初めに定量調査を行い、その後定性調査・定量調査を重ねていくわけですね。

その通りです。

製品開発の入り口を決める際は、定量調査から始めることが望ましいです。

例えば、男性化粧品をつくる場合、カテゴリーやフォーマットは様々な選択肢があります。

ブランドの方向性をベースに、スキンケアや美容液など、ある程度方向性が決まっていることが大半ですが、その中でどのようなニーズに着目するかなどは、量的な消費者の情報を使って判断することになります。

量的な情報を用いることなく商品の方向性を決定すると、ニッチすぎる商品になる、あるいは、差別化が難しい領域に商品を出してしまう可能性があります。

製品開発時点で、「どの領域に商品を出すか」を、ビジネスポテンシャルをもとにデータを用いて計算するだけで、勝率が大きく変わります。

まとめると、以下の3つのステップが理想の流れになります。

1. 定量調査、定性調査を通じて消費者を理解し、インサイトを深堀する。

2. インサイトを踏まえた強いコンセプトをつくる。

3. 作ったコンセプトが受け入れられるのか、どの方向性で進めるのか、を再度定量調査で確認する。

 

ーー調査をうまく活用したことでマーケティング戦略に良い影響をもたらした経験を教えてください。

あるメンズブランドの商品パッケージのリニューアルをしようとした際に調査を行い、マーケティングで取るべき行動が、当初の予定と大きく変更した事例がありました。

15年前にローンチされたブランドで、ロイヤルユーザーが非常に多く、メインの顧客は40代以上ということが、データとして見えていました。

今後20代,30代の新しいユーザーを獲得していく上で、我々としては「昔から変わっていないパッケージデザイン」が障壁となっているのではないかと仮説を立てていました。

近年の化粧品に見られる、ベネフィットがパッケージ上であまり語られていないシンプルなデザインに変更することで、若いユーザーが振り向いてくれるのではないかと考え、実際にデザインを用意して定量調査を行いました。

すると意外なことに、購入意向、親和性、新規性のいずれの項目でも、既存のデザインの方がスコアが高いという結果が得られました。

10年以上の実務経験を持つブランドマーケターの主観で「もう古いデザインなのではないか」と考えていたところを、1週間程度の調査で根本から考えを改めることができた事例です。

もしそのままデザインの変更を行っていれば、既存のロイヤルユーザーは離れ、新規のユーザーも獲得できずに大失敗していたと思います。

 

ーーデータを活用する際に注意する点はありますか。

定性調査、定量調査ともにそれぞれの目的をしっかりと認識しておくことが重要です。

定性調査を行う際には、「定性調査は何かを判断するための調査ではない」という部分に留意するべきです。

例えば、A.B二つのアイデアに対して5人から意見を伺い、Aを支持する人が5:0の割合だったとしても、Aの方が良いと判断してしまうことは正しくありません。

定性調査はあくまで「何かを深堀するための用途で行う調査」なので、定性調査をもとに意思決定をすることは誤りに繋がります。

逆の場合もあてはまります。

定量調査をする時に「定量調査の内容からインサイトを判断しない」ということもとても重要です。

例えば、「肌の悩みに該当するものを選んでください」という質問をすると、多くの場合「毛穴」などが回答数として多くなります。

続けて「あなたの肌の悩みの原因は何だと思いますか」と質問を行ったとき、「乾燥」にチェックが入ると「乾燥にアプローチして、毛穴を改善する」といった、とても表層的なコンセプトが導き出されます。

定量調査では、大多数の平均値が結果として現れるため、一人の深堀にはなり得ず、コンセプトの差別化に繋がらないため、結果からインサイトを判断するのは大変危険です。

 

ーーキャンペーンなどを実施しても売上や認知率に変化が見られない場合、どのように改善をしていくべきでしょうか。

キャンペーンなどを実施しても売上や認知率に変化が見られない状況で、考えられるケースは二つあります。

一つ目は、認知を取りたいターゲットに「接触していない、または、接触しているが接触頻度が足りていない」場合です。

二つ目は、認知を取りたいターゲットに「接触し、接触頻度も十分だが、訴求したい内容が届いていない」場合です。

前者は、Web上の広告であれば正確な数字が確認でき、テレビ広告であれば、推測ではありますが、リーチと接触頻度を見ることは可能です。したがって、数値をベースに改善の仮説を立てていくのがよいでしょう。

表示回数と接触頻度をもとに、何人の人が、何回広告に触れているかを見ることで、それらが十分かを確認できます。

一方で、表示回数は広告の表示された回数なので、必ずしもユーザーがそれを見ているとは限りません。つまり、見られていない可能性や、見られていても理解されていない可能性があります。

そこで大切なのが、後者の「接触し、接触頻度も十分だが、訴求したい内容が届いていない」ことを検討することです。

表示回数と接触頻度が足りている場合、広告素材やキャンペーンの内容に問題があります。

例えば、広告が多く拡散されていてもブランドについて触れていない、タレントに焦点を当てている、そもそも本来伝えたいベネフィットが全く違う形で訴求されている、というように内容がブランドやベネフィットと紐づいていない設計になっている事が考えられます。

そのような場合は、消費者に直接インタビューを行い、素材に対してフィードバックをいただき、伝えたい内容が伝わる構成になっているかを確認するのが良いでしょう。

事後でのレビューももちろん可能ですが、広告やキャンペーンを実施する前にテストを行うことで、効果が出ないといった失敗の確率を大きく下げることができます。

テレビCMやWEB動画の広告やキャンペーンを実施する際には、多大なコストがかかるため、事前の調査で売上や認知率が確実に上がることを確認した上で実施へと踏み切るべきです。

これらの調査が広告の費用対効果を格段に上げることを考慮すると、調査への費用を削減してしまうことは非常にもったいないと思います。

 

ーー最後に、リサーチを検討している企業の方やマーケティング担当者の方に向けてメッセージをお願いします。

お伝えしたいことが二点あります。

一点目は、調査は、きちんと設計して行えば、とてもコストパフォーマンスが良く、売上や利益に直結する武器になるということです。

調査は、手間やコストがかかると思われがちですが、ブランドや新製品を立ち上げや、広告やキャンペーンの実施にかける情熱や投資が大きいほど、実施する価値が高くなります。

調査をすることで、失敗確率が下がり、成功する可能性が上がるため、感覚と経験のみで進めるのではなく、消費者の声を取り入れた調査を、ぜひ積極的に実施してほしいと考えています。

二点目は、小さい会社やスピード感を持っている会社ほど調査をしっかりと行った方が良いということです。

スピードや柔軟性を持って進めている事業は、主観的になりやすい傾向があります。経営者が欲しい製品や、ブランド担当者の個人的な経験からもたらされるアイデアであることが多いです。

事業主からすると、とてもニーズが高いと感じるプロダクトであっても、、事業主がペインポイントを感じている点の他に、一般ターゲットの冷静な意見を取り入れると、さらにプロダクトの質が高まる事例が多いです。

広告も同様に、メッセージやベネフィットを詰め込むと、本来のメッセージが届かないことも多くなります。調査は、ターゲットを理解する上で間違いなく手助けする手法になりますので、是非実践していただければと思います。