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マーケティングを学んだことがある方なら、「インサイト」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
インサイトという言葉は多くの方に知られていますが、意味が誤解されていることが多い言葉です。例えば、高級化粧水を買っている人のインサイトを聞いたときに「来週親友の結婚式でスピーチするけど、肌荒れが気になっているからきれいにしたい」といった回答を目にしたとします。
しかし、これはインサイトではありません。顕在化されているもの、言語化されているものはインサイトではなく、顕在ニーズです。
顕在ニーズとは
顕在ニーズとは、消費者自身が「ペイン」として認識できているものです。定量調査や定性調査(デプスインタビューなど)によって、消費者が回答した内容から整理することが可能です。量的調査の調査項目になっている時点で顕在ニーズと呼ぶことができます。
顕在ニーズを基にした定量調査によって、おおよその市場規模を推測することができます。
例えば、シャンプーの市場を分類するときに、シャンプーを買うときにどのような悩みを解決するために購入していますか?と確認します。
ダメージを改善したい、パサツキを改善したい、頭皮をきれいにしたい、フケをなくしたいなどと、顕在化したニーズ順にアンケート結果がでると、ダメージケアが一番大きい市場だと理解できます。
そのため、顕在ニーズをもとに市場規模を理解するプロセスは重要です。
インサイト開発の重要性
インサイトについて再度説明します。
ここで定義するインサイトとは、「ユーザー自身がペインと認識していない潜在ニーズ」のことです。
認識していないニーズを発掘するには、マーケター自身がデータやインタビューをもとに考える必要があります。
例えば、お風呂掃除用の洗剤の事例で考えてみましょう。
ターゲットを「お風呂掃除でバスタブを洗っている人」と定義しましょう。
現在は、お風呂をこすって掃除しています。表面的なニーズ、つまり顕在ニーズは、「お風呂掃除が少しでも楽になるように、汚れがきちんと落ちる洗剤がほしい」というものです。
ここで、「こする前提で汚れが簡単に落ちるといいな」というニーズが顕在ニーズです。
対して、インサイトは、そこから更に発展して、「こするという作業がめんどくさい、こすらなくてもお風呂の汚れが落ちたらもっと楽になるのに」というところに行き着きます。
このインサイトの開発があったからこそ、待つだけでお風呂がきれいになるという商品を開発するに至ったと想像できます。(*実際の開発プロセスは存じ上げないため当社の想像です)
実際には、「こすらなくていいが、待たないといけない」という製品の性質を消費者が受け入れられるかどうか、検証をする必要があります。それに加えて、こすらなくても落ちるということを消費者に信じてもらうための理由も必要となります。(Reason To Believeとも呼ばれる)
開発したインサイトをもとに作ったものが実際に売れるかどうかはさらなる検証が必要となります。
良いインサイトの条件
良いインサイトの条件について再度まとめてみます。
1.消費者がまだ言語化できていない
繰り返しになりますが、消費者が言語化できていないという点が重要です。言語化できているものであれば、簡単にヒット商品が作れることになります。言語化できていないものをマーケターが発掘するからこそ価値のあるアイデアになり得ます。
成熟したカテゴリにおいて言語化されていないものを発見する作業は非常に大変です。
2.複雑ではなくシンプルで一行で表現できる
一生懸命開発したインサイトが説明が必要なものでは価値がありません。誰もが「なるほど」と分かってくれるようなものが必要となります。
3.本能的な欲求に刺さり、新たな気付きを与えることで消費者の心を揺さぶる
購買の動機となりえるような深い欲求にヒットするものでないといけません。そして、購買の動機になる際に、「あっ、たしかにこういうのありだな」と気付きを与える必要があります。
この3点を満たしているインサイトであれば売れる商品開発につながる可能性が高まります。インサイトをもとにどういう商品を作ってみるか考えてみて、アイデアが多々でてくる場合も良いインサイトと言えるかもしれません。
インサイト開発が難しい理由
インサイトを開発するのが難しい理由は「バイアス」が存在するためです。先程のお風呂用洗剤の事例であれば、「お風呂はスポンジでこすらないと汚れが落ちない」というバイアスがインサイト開発の邪魔をします。
特にある領域に深く知見をもっていればいるほど、「これは無理だろうな」と無意識にインサイト開発の邪魔をすることが多々あります。
化粧品業界においても、素人が考えたアイデアが大ヒット商品になることがあります。多くのマーケターが無理だろうと思うアイデアも、素人であれば、「いいアイデアで面白そうだからやってみよう」となることがあります。
若手のマーケターが、ベテランのマーケターに勝てる点があるとすると、バイアスの少なさです。若手のマーケターは業界に染まっておらず、バイアスが少ないため、先輩を気にせず、アイデアをどんどん出していくと良いでしょう。そして否定されたとしても、可能性があるかもしれないと常に思い続けることが重要です。
マーケティングの仕事においては、先輩の意見ではなく消費者の意見を聞くことが大事です。
しかし、同様に消費者にもバイアスがあります。そのため、デプスインタビューの過程で本音を引き出すことは容易ではありません。
消費者のバイアスの種類
代表的な消費者のバイアスの種類を3つ紹介します。
1.トレードオフ
例えば下記のものが該当します。
- 体にいいものはおいしくない
- ボディスクラブは肌に刺激が強い
- 身体を洗い流したら保湿成分は落ちてしまう
- 汚れを落とすには手間がかかる
- 頭が良くなるには努力が必要だ
実際には体にもよく美味しいものは世の中に存在するので、二律背反にならない場合があっても、人は無意識のうちに二律背反で物事をとらえてしまいがちです。
2.理想と離れた現実
例えば下記のものが該当します。
- 歳をとるにつれて肌にしわやしみができる
- 子どもは成長して親と過ごす時間は少なくなる
- 子どもはパソコンでゲームばかりしている
- 毎日料理をするとマンネリ化してしまう
- ママは仕事に育児や家事と毎日が忙しい
- 身体を洗い流したら保湿成分は落ちてしまう
- SNSや雑誌のモデルや女優と比べると自分の外見に自信が持てない
理想があっても、仕方ないこととして受け入れているものが該当します。実際には理想を追い求めていくことが可能にもかかわらず、周りはこうだからという先入観で、「現実と理想は違う」と思い込んで諦めてしまい、バイアスを持つようになります。
3.社会規範
例えば下記のものが該当します。
- 男性は賢くて稼がなくてはいけない
- 女は30歳までには結婚しなくてはいけない
- 就職活動では全身黒いスーツで髪を整えなくてはいけない
- 男女平等の世の中で差別的な発言は許されない
社会規範は小さいころからの教育や外圧によって刷り込まれたものが多く、なかなかその規範を意識的に破ることは難しいものです。マーケター自身も社会規範に無意識に縛られています。
「”ゼロベース”で考えよう」と会議中に誰かが発する場面は多くあるのではないでしょうか。ここでいうゼロベースはすべてのバイアスを一度取っ払って考えようという意味も含まれていることが多いです。
真の意味でゼロベースで考えることができ、無意識のバイアスを解除できたときに良いアイデアがでてきます。
バイアスに隠れた本音
先程の3つのバイアスに関して消費者はどのように考えているでしょうか。
1.トレードオフ
実際はトレードオフにせずどちらもかなえたいと考えています。
2.理想と離れた現実
本当は理想に近づきたいと考えています。
3.社会規範
本当は規範に従わず、自分の思い通りにしたいと考えています。
もちろん全員がそのように考えているわけではないですが、なにかの理由で制限されたり、諦めたりしたくないと考えている方が多いです。
こうした隠れた本音をマーケティング活動によって叶えることができないかはインサイトを開発することの醍醐味になります。
インサイト開発からコンセプト設計までの大枠
下記の図をご覧ください。
インサイトからコンセプト作成までの手順をまとめた図です。インサイトをもとにして、POP、POD、RTBを考えていくことで、良いコンセプトが完成します。
POP、POD、RTBについて詳しい説明を下記に記しました。
- POP(Points of Parity): 製品カテゴリにおいて最低限満たすべき要素・便益。この要素が欠けている場合、消費者が買わない理由になる。
- POD(Points of Difference):自社ブランドにしかない、競合ブランドから差別化できる要素・便益。競合製品と比べて、消費者が自社製品を買う理由になる。
- RTB(Reason to Believe):便益の裏付けとなるもの。消費者が信じる理由になる。
このように、POP、POD、RTBを考えるためには、消費者の深い理解が不可欠です。もしインサイト開発で失敗してしまうと、POP、POD、RTBが見当違いのものになり、良いコンセプトが打てないでしょう。良いコンセプトのカギは、良いインサイトにあるのです。
今回はコンセプト作りについての詳しい説明を割愛しますが、コンセプト作りも非常に難易度が高く、訓練が必要な領域です。
インサイトを正しく開発するために
消費者調査やマーケティングの経験がない方にとって、インサイトを開発することは難易度が高いかもしれません。そのため、最初は専門の会社と一緒にインサイトを開発する経験を積んでから自社内で完結できるようになることが望ましいです。
株式会社Brandismでは定量調査と定性調査をはじめ、インサイト開発の一連のプロセスの支援を行っております。
一緒に汗をかいて開発したインサイトをもとに商品開発につなげ、それが売れていく過程は非常に楽しいものです。
プロの力を借りてインサイトを開発してみたいという方は是非ご連絡ください。