効果的に売上を伸ばす小売り販売戦略

最近では、D2Cからスタートしたブランドが、ロフトやコスメキッチンといった小売店の商品棚に並ぶ事例が増えてきました。

マルイや伊勢丹などの百貨店においても、D2Cブランドが臨時出店としてポップアップストアを開設したニュースも定期的に目にすることがあります。

例えば、セルフケアブランドのPHOEBE BEAUTY UPや、スムージーなどを提供するGreenspoonのような企業は、マルイに出店しています。

D2Cブランドとしてオンラインでの販売をメインでスタートした商品が、小売店で売上を伸ばすにはどのようなポイントがあるのでしょうか。

本記事では、ユニリーバで長年消費材ブランドのブランドマーケティングを経験したBrandism代表の木村に、小売店販売におけるポイントをインタビューしました。

 

消費財の売上は約90%が小売店によるもの

ーはじめに、小売り販売を進めていく上で、どのような販売方法がありますか。

小売り販売は、基本的にオフラインでの販売チャネルが主流です。

小売店とは、最終的に消費者が商品を購入する最後のお店を指し、ドラッグストア、GMS(General Merchandise Store)、スーパーマーケット、バラエティストア、ホームセンター、専門店など、様々なチャネル(小売店の形態)があります。

小売販売を行う業界では、小売りというキーワードとともに、よく”卸(おろし)”’という言葉が用いられますが、卸とは商流や物流を間で束ねる仲介業者のことを指しています。

 

ー現在、小売りにおいて主流となっている販売方法などがあれば教えてください。

小売り販売を行う上では、イオンやセブンイレブンのような、オフライン店舗で販売をすることが中心になります。

しかし、小売店がECでの販売を行っている場合は、オフライン販売(店頭販売)とオンライン販売のオム二チャネルで販売されることもあります。

近年の百貨店などでは、オンラインストアでの売れ行きを確認しながらオフラインでの販売商品を調整する場合もあり、小売りにおいてもオンラインとオフラインを使い分けていく方法が増えています

 

ー近年、D2Cブランドが小売りでの販売に進出することが多いと感じますD2Cのブランドは、なぜ小売りに進出することが多いのでしょうか。

D2Cブランドが小売りに進出している理由としては、大きく2つあげられます。

1つ目の理由は、より大きな売上を求めているからです。

ECでの売上にはいずれかのタイミングで頭打ちになってくるフェーズがあります。これはECでは購入しないユーザーが一定層いるからです。

日本では消費財におけるEC購入比率は10%に満たないため、売上の90%以上はオフラインから生まれています。メガブランドの大半は、オフラインが主流です。

そのため、ニッチな領域からスタートをしたD2Cブランドでも、規模を求める以上は、オフラインに進出する必要があります。

2つ目の理由は、ユーザーの獲得単価が上昇しているためです。

ユーザーの獲得単価が上昇している理由は、オンラインの広告費の高騰により、CPA(Cost Per Acquisition:ユーザーの獲得単価)が急激に上昇していることが背景としてあります。

小売店のマージンを考慮すると、オフライン販売をするよりもD2Cでユーザーに直接販売をした方が利益率が高くなります。

一方で、一人当たりの新規顧客を獲得するための広告費という観点では、オフラインの方が安くなる傾向にあります。

これは、オフラインで店頭に並べることが、デジタル広告で言うところのインプレッション(ユーザーへの広告の表示)を取れている状況になるからです。

そのため、店頭に配荷し、十分な露出が出ている場合、広告費をかけることなく店頭で新規顧客を獲得することが可能になります。

 

オフラインでの売上は、「配荷」「定番棚」「エンド」が鍵を握る

ーオフラインで商品を販売する際に、売上の鍵となるポイントを教えて下さい。

店頭販売での売上を伸ばしていくポイントは複数ありますが、特に重要なポイントとして、配荷、定番棚を取ること、エンド(ディスプレイ)を取ることの3つがあげられます。

店頭販売のポイントの1つ目は、「配荷数」を上げることです。配荷とは、店頭に商品を並べることを指しています。

ある商品を販売する際に、10店舗で販売をするよりも1,000店舗で販売をした方が、多く商品を購入してもらうことができます。

また配荷が十分であれば、消費者に商品を見つけてもらえる可能性が上がるため、配荷数は重要なポイントです。

店頭販売のポイントの2つ目は、「定番棚において、いかに良い場所を取るか」です。

どれほど配荷を上手く行っても、商品が店頭の端や狭いスペースに並んでいる状態では売上は立ちづらくなります。

人の目線の高さである棚の真ん中が最も購入してもらえる確率が高いため、業界ではこの販売エリアはゴールデンゾーンと呼ばれています。

店頭販売のポイントの3つ目は、「エンド(ディスプレイ)のような定番棚以外のスペースの獲得」です。

エンド(ディスプレイ)とは、定番棚とは別に商品を並べるスペースを指します。ドラッグストアに行くと、商品棚とは別の箇所にお菓子やシャンプーが並んでいることがあると思います。

お店の商品が並んでいる定番棚の場所に加えて、消費者の目に止まりやすい場所であるエンド(ディスプレイ)に並べてもらうことで、目的外のユーザーが商品を購入する可能性が高まります。

エンド(ディスプレイ)のメリットとして、定番棚には置くことができない店頭ボードを並べることができます。

例えば、店頭ボードのキービジュアルがテレビCMと連動していると、テレビで見たビジュアルと店頭で見たビジュアルが一致するため、購入してもらえる可能性が上がります。

 

ー定番棚で様々な競合商品が並ぶ中、売上を伸ばしていくにはどのような施策が考えられますか。

店の大きさにもよりますが、商品棚には20~50のブランドが並んでいます。消費者は商品を購入するつもりで棚の前に来るため、まずは商品の中で目立つ必要があります。

商品が複数あるときに売上を伸ばすポイントは3つあります。

ポイントの1つ目は、「そのブランドを知っている状態にすること」です。商品を購入するときに、その商品を知っている方が買われる可能性が高くなります。

例えば、有名なテレビCMが流れている、あるいは、昔から有名なブランドである方が買われる可能性は高まります。

たしかに、そこまで知られていない、あるいは、パッケージが可愛いニッチなブランドが売上を伸ばす可能性は年々高まっていると思います。

しかし、認知の低い商品を購入するユーザーは多くはないのが現状です。

また、一般的には知られていないと思われる商品でも、インフルエンサーなどを通じて特定のターゲットの中での認知率は高い傾向にあります。

したがって、ターゲットにとって認知の高い商品の方が購入される可能性は高まると結論付けることができます。

マスのブランドのほとんどがテレビCMを打つのは、このような理由からです。

売上を伸ばすポイントの2つ目は、「そのブランドが見つかる状態にすること」です。
どんなにテレビCMを打って認知が高まっても、消費者は基本的に棚の前で選択をします。

商品を選択する際に、商品が見つけづらい場所にある場合は、商品を購入してもらえる可能性は低くなります。そのため、棚の中ではできるだけゴールデンゾーンに近い位置に商品を並べることが大切です。

売上を伸ばす3つ目のポイントは、「そのブランドが最終的に選ばれるパッケージとコミュニケーションになっているか」です。

ユーザーが棚の前で商品を探す際、具体的には、自分に合う商品や、自分の欲しいフォーマット(粉状、液体状、濃縮タイプのような商品の性質)の商品を探しています。

消費者が欲しいと思ったときに、気づいてもらえるパッケージの形やコミュニケーション(商品がもたらす便益)がしっかりと伝わるかどうかが大切です。

したがって、ただ単に可愛いパッケージを作るのでは十分ではありません。これは、D2Cで商品を販売するのと大きく異なる点です。

D2Cで商品を販売する際には、LP(ランディングページ:商品の購入ページ)で商品の説明をすることができますが、店頭では商品を説明する場所はありません。

そのため、シンプルに機能や便益を伝え、まずは商品を手に取って選択肢に入れてもらうことが必要です。

D2Cのブランドがアンダーステイテッド(あまりパッケージに表現をしないシンプルなデザイン)と呼ばれる一方で、マスブランドの商品のパケ―ジのアピールが激しいのは、上記で述べたように、店頭での競争に勝つためであると言えます。

   

売上を上げるために、メーカー主導でプロモーションを行うこともポイント

ー商品の集客を拡大するポイントを教えてください。

小売店での集客を伸ばすポイントは大きく3つあります。

ポイントの1つ目は、「製品をエンド(ディスプレイ)に並べ、多くの集客を得る」ことです。

ある商圏に複数のドラッグストアがある場合、消費者はできるだけ安い商品を購入したいと考えるため、安い商品がある店で商品を購入します。

そのため、安いという観点でお得な商品を提供できるかが重要です。

商品に関する情報源は、チラシや店頭でのエンド(ディスプレイ)などです。

ポイントの2つ目は、「特別なプロモーション商品があるか」です。

特別なプロモーションとは、歯磨き粉の「10%増量」や、洗剤の「ボトル+詰め替えセット」、シャンプーの「シャンプーとコンディショナーセット」などの商品を指します。

プロモーション品は普段は販売されておらず、お買い得なセットをメーカーが用意する形で販売します。

メーカーは、これらの製品をエンド(ディスプレイ)に並べてもらうことで消費者の購入に繋がるため、期間限定のプロモーション商品を出しています。

プロモーション商品は、価格に関してだけではなく、季節性のある商品を出す場合もあります。

例えば、春にサクラの香りのする商品を販売する、あるいはクリスマスの季節に、コフレセット(ボックスなどに入っている期間限定商品)を用意する場合などが季節性のある商品の例です。

ポイントの3つ目は、小売店限定のブランドやシリーズを販売することです。

この手法は、最近のトレンドであり、小売店が魅力に感じている手法です。

ある店舗だけでの展開商品があると、小売店はそのブランドを大切にします。なぜなら、その商品を購入した消費者が商品のロイヤルユーザーになれば、わざわざ自社に足を運んでくれるからです。

最近では、シャンプーブランドは、この戦略を取るブランドが多くなっています。

具体的には、どのドラッグストアにも置いてある商品ではなく、ある店にしかない商品を発売します。その後、販売規模を大きくするために、別の店でも販売していくという戦略です。

途中までは一つの小売店と組むことでブランドを育てています。

 

ー店頭でのプロモーションを行う際のポイントを教えてください。

店頭でのプロモーションは様々ありますが、ここでは大きく3つ説明します。

店頭プロモーションの1つ目は、価格プロモーションです。価格プロモーションには、2種類あります。

価格プロモーションの1つ目は、値段を下げることです。

定価価格から、期間限定で価格を下げる施策がこれに当たります。

価格プロモーションはマス製品に多い手法で、オフテイク(店頭での購入数)が大きく上がり、売上への反映が大きいのが特徴です。

価格プロモーションの2つ目はポイント販促です。

現在、多くの小売店がポイントを付けており、店頭でのポイントキャンペーンを行うのがポイント販促です。

例えば、高価格帯のブランドは、ワンプライス戦略(商品の価格を変化させない戦略)を取ることが多くなっており、そのような商品でポイント販促を行うことがあります。

「オフテイクを伸ばしたい時のポイント販促であれば実施して良い」という形で、ブランドごとに決まりがあるのが一般的です。

店頭プロモーションの2つ目は、消費者キャンペーンです。

消費者キャンペーンとは、具体的には「何円以上購入者に〇〇プレゼント」というイベントです。

例えば、ヤマザキの春のパン祭りや、オリンピック時のチケットプレゼントキャンペーンが消費者キャンペーンに当たります。

消費者キャンペーンでは、消費者に還元していく形でイベントが進みます。

消費者キャンペーンは、メーカーが仕掛けて全国で行う場合と、メーカーが1社の小売店とのみ組み、その小売店限定で行うパターンの2つがあります。

店頭プロモーションの3つ目は、店頭POPによるコミュニケーション強化です。

店頭POPとは、商品のパッケージだけでは伝えられない説明や便益を補足で追加するために、店頭で付けるツールを指します。

店頭POPにはいくつか種類があります。

定番POPは、各製品の前についている説明で、商品の便益を伝えています。

サイドポップは、商品を横から見たときの視認性を上げるツールです。

シングラーは、前垂れになっていて、POPが前に出ている形式です。例えば、「new」や「〇〇とコラボ中」などの説明の際に使用します。

 

ー小売り販売を行う上で、価格はどのように決めていますか。

一般的にそれぞれのブランドやSKUに対してメーカーが行う価格設定には2種類あります。

1つ目の価格設定方法は、価格に幅を設けるパターンです。
メーカーは、「基本的には〇円で売ってほしい」という定番価格を定めています。

「ただし、店頭でディスプレイをする際には〇円で販売しても良い」という形で、価格に幅を持って提示します。

しかし前提として、小売店で商品を販売する場合は、法律上値段を決める権利は小売店にあるため、価格を強制する権利はメーカーにはありません。

したがって、メーカーと小売店の間で話し合いながら価格が決まりますが、メーカーが上限と下限を決めていきます。

2つ目の価格決定方法は、ワンプライスです。

ワンプライスで価格を決定する方法は近年よく見る事例です。価格を上下させると、時と場所によってユーザーが購入する価格が異なるため、ワンプライスに整えていくことが多くなっています。

特に、マスプレミアムと呼ばれる、平均価格よりも高い値段に設定されている商品では、ワンプライスに設定されることが多い傾向にあります。

   

認知の小さいブランドが店頭で売上を伸ばすことは十分可能

ーオフラインで商品がうまく売れない時は、どのような原因が考えられますか。

小売店などのオフライン販売で商品が上手く売れていないのは、先ほど述べた「商品をオフラインで売るポイント」の真逆になっている場合がほとんどです。

つまり、「配荷が不十分である」、「定番棚に並んでいるものの、商品が目立たない、または、販売スペースが狭い」「エンド(ディスプレイ)に商品がない」のいずれかです。

例えば、数多くあるD2C商品の中でよく売れている商品をドラッグストアに並べても売れない、という事態が多く発生します。

D2Cの商品はデジタル広告で販売しているため、消費者は興味があることを前提としてLP(ランディングページ)を見ています。そのため、適切なLPであればすぐに商品が売れます。

一方、店頭販売の場合は、来店した消費者が商品棚の前を単に通過するだけでは、インプレッション(デジタル広告における、広告を見ている状態)にはなりません。商品が目立って始めてインプレッションされます。

そのため、商品がクリック(デジタル広告における、商品ページに入る状態。ここでは商品を手に取って興味を示している状態を指す)されるに、まずは目立つ必要があります。

また、定番棚でスペースを確保して目立っていても、オフラインで販売している店舗が10店舗程度では、規模が小さくオフラインで販売を進める意味がありません。

したがって、定番棚を取りながら、配荷数を増やしていくというバランスが大切です。

また、3つ目のポイントとして、エンド(ディスプレイ)に商品がないことを挙げました。

商品を販売する上で定番棚を取ることが大切だと先ほど述べましたが、無名のブランドが定番棚に並んでいるだけでは商品が売れづらい傾向にあります。

これは、商品の認知が低く、店頭ではLPのようなコミュニケーションを取れないためです。

しかしながら、有名な店舗でのエンド(ディスプレイ)を大規模で展開すると、ユーザーに見てもらえるチャンスが増え、購入してもらえる可能性が高まります。

まとめると、認知が小さいブランドは、「3 エンド(ディスプレイ)を増やす」→「2 定番棚で良い場所に並べる」→「1 配荷数を増やす」の順で取り組むことが良いと思います。

つまり、まずエンド(ディスプレイ)を増やして小売りに販売を促進してもらい、定番棚に多くのSKUを並べ、その実績をもとに配荷数を増やすという流れが良いと思います。

 

ー例えばD2Cのブランドのように、テレビCMなどのマスマーケティング施策を行えるだけ十分な予算がないブランドは、消費者の認知という点で不利な状況にあると思います
消費者が認知していない商品を購入することはありますか。

認知の低いブランドが、店頭での売上を伸ばすことは大いに可能です。

特に最近では、店頭で売上を伸ばしているシャンプーやスキンケアブランドが、テレビCMや大々的な広告を打っていない事例はたくさんあります。

このようなブランドが売れるためには、エンド(ディスプレイ)で話題性のある売り方をされ、定番棚の真ん中で売れている演出をされることが大切です。

「エンド(ディスプレイ)で販売されること」と「定番棚を取ること」の2つは、小売店で売上を伸ばす上での基礎の基礎です。

上記の条件を満たした上で、認知率が低くても売れる商品にはいくつか特徴があります。

例えば、シャンプーでは、パッケージの3Dと呼ばれる商品の形状が特徴的である、あるいはブランド名や製品のベネフィットが独特である、というように、マスブランドにはない独自性をもつことがポイントです。

さらに最近では、店頭で消費者がスマホを使って商品を調べるユーザー行動が当たり前になってきています。

そのため、Instagramなどで話題になっている、あるいはインフルエンサーに取り上げられているという演出が出来ているかは大切な視点です。

Instagramの他に、アットコスメなどのレビューサイトや、レビューが掲載されている雑誌で高評価を獲得していると購入者も増えるため、これらの情報も見逃せません。

 

ブランドマーケティングをさらに強化するために

ーここまで小売りについて話をしていただきましたが、Brandismではどのようなサービスを展開していますか。

Brandismでは、オフライン・オンラインを織り交ぜたハイブリッドなブランドマーケティングのサポートを行っています。

具体的には、D2Cで大きな成長を遂げ、オフラインでの販売に進出をする際に注意しなければならないことや、オンラインを活用しながら小売りでの売上を最大化するためのノウハウを提供しています。

(ただし、消費材など、カテゴリー次第ではご協力ができない場合がございます。)

 

ー小売り販売をはじめとしたマーケティング業務にお困りの事業主の方にメッセージをお願いします。

小売店におけるオフラインのマーケティングと、D2Cをはじめとしたデジタル上のマーケティングは、手法が180度異なります。

特に、マスマーケティング施策を仕掛ける際には、オフライン販売の戦略を正しく持つことで費用対効果が大きく異なります。

オフラインとオンラインを織り交ぜたマーケティング活動が必要なブランドの事業主の方は是非1度ご相談ください。