目次
マーケティング施策を効率化し、ユーザーのロイヤルティを高めるブランドアイデンティティ
ーはじめに、ブランドアイデンティティとはどのようなものですか。
ブランドアイデンティティには様々な定義がありますが、ここでは「自社の製品やサービスのイメージ形成を可能にさせる個性」と定義します。
既存ブランドが理想のブランドのイメージを形成するためには、まず、現在のブランドが、消費者やターゲットからどのように見られているかを把握した上で、理想のブランドの個性に形を変化させていく必要があります。
一方、新規ブランドは、消費者のイメージがゼロからのスタートなので、ステップは少なくなります。
後に変更することはとても大変なプロセスなので、ブランドアイデンティティは、初期に時間をかけて、明確な理想像を描くことが重要です。
ブランドアイデンティティは、構成する様々な要素によって、ブランドを象徴するイメージが作られています。
例えば、ロゴやキャッチコピー、キャラクターはもちろん、フォントやサイト上での語り長、店頭のイメージ、コールセンターや営業の対応など、360°の要素を通じて、消費者はブランドに対するイメージを持ちます。
ーブランドを作る上で、ブランドアイデンティティを形成することはなぜ大切になりますか?
ブランドアイデンティティの形成が重要な理由は大きく2点あります。
1つ目は、マーケティング施策の効率を上げるためです。
ブランドアイデンティティは、ブランドが独自に提供する価値を表現するものです。
ブランド名、ブランドを使用する場面、ブランドがもたらす便益などが、ブランドアイデンティティを通じて消費者に想像されると、マーケティング的に効率が良くなるため、ブランドアイデンティティを形成することが重要になります。
例えば、子どもとドライブに行くことを想像してください。マクドナルドを見つけた子どもは、多くの場合ワクワク感を抱きます。
黄色のMのマークを見つけると、「自分が大好きなハンバーガーを食べられる」という「ブランドが提供する価値」を感じるように、ブランドアイデンティティを通じてブランドの提供価値を即座に理解してもらうことができます。
これは、単に「ハンバーガーを売っている」というコミュニケーションを越えて、ロゴやマークが、そのブランドがもたらす価値を即時的に伝えていることになります。
ブランド独自のイメージを形成することは効率が良いと表現したのは、上記のような理由からです。
2つ目は、ブランドへのロイヤリティを高めるためです。
ブランドアイデンティティは、ブランドに対するロイヤルティを生み出し、将来的にブランドへの愛着度を高めます。
マクドナルドのロゴは、食という提供価値を越えて、店で感じた楽しさなどを消費者の頭の中にイメージさせ、ロイヤルティと結びつきます。
ブランドアイデンティティを持つことで、使用前の認知や興味関心の効率だけでなく、リピートや愛着といった、使用体験後の効果も各段に改善することができます。
ブランドの起源まで遡り、ブランドのビジョンや意義を定義する
ーブランドアイデンティティを構成する要素にはどのようなものがありますか。
ブランドアイデンティティを構成する要素は様々あり、一概に言うことはできませんが、大きく分けると2つに分類できます。
1つ目は、ブランドDNAと呼ばれるものです。
ブランドDNAは、
・ブランド存在意義(パーパス)
・機能的便益(ファンクショナルベネフィット)
・情緒的便益(エモーショナルベネフィット)
・ブランドの擬人化(ブランドパーソナリティ)
など、様々な要素から構成されます。
ブランドの存在意義(パーパス)とは、ブランドが社会に存在する意義を指します。
例えば、消費財ブランドのDoveの存在意義は、ターゲット女性が「ありのままの自分でいることこそが美しい自分でいることだ」と認識し、自己肯定感をあげること、としています。
これは、Doveというブランドがシャンプーやボディソープの販売を通じて、髪や体が美しくなることは当然のことで、それらの機能的な便益を超えて、ブランドが大きくなればなるほど、社会や人に対してどのような価値を与えるべきなのか、という観点で作られています。
新ブランドが、突然社会的な存在意義を唱えることは不自然に見えるかもしれませんが、ブランドを通じて、社会やそこに生きる人に対して貢献をしていくロードマップを描くことは、直近のブランド創りにおいて大切なことだと思います。
機能的便益とは、ブランドやサービスの使用を通じて、物理的に提供する便益を指します。
例えばシャンプーの機能的便益は、髪がきれいになること、ハンバーガーの機能的便益は、美味しく、空腹を満たしてくれることです。
情緒的便益とは、ブランドやサービスを通じて心理的に得られる便益を指します。
例えばシャンプーであれば、使用後に気分が高まること、マクドナルドであれば、週末に家族と楽しい時間を過ごす特別感が情緒的便益になります。
「ブランドの擬人化(ブランドパーソナリティ)」とは、ブランドを人に例える、あるいは個性として捉えるとどのような存在であるかを指します。
例えば、コカ・コーラであれば、「常に人を元気付けて、周囲をリフレッシュさせるような人」という形でブランドを言い表すことができます。
ブランドパーソナリティを定めるのは、広告作成時やWebサイト設計時に、人や物に比喩することで、ブランドのイメージを形成しやすくなるためです。
他にも、「ターゲット」や「ブランドが思い描く未来」など、様々な要素がブランドDNAを構成していますが、主要な物は上記の通りです。
ブランドDNAを考える際は、ブランドの起源から遡ることが大切です。
例えば、ECのプラットフォームを提供するSaaSのecforceは、当初はSaaSビジネスではなく、メーカーとして自身で商品を販売する中で、より売上を伸ばすために、消費者に購入してもらいやすくするよう自らシステムをアップグレードしてきました。
自社でメーカーをやっていたので、ECカートを通じて、多くのメーカーが悩んでいる煩雑なEC構築を簡素化し、自社の製品開発やマーケティングに集中してほしいという想いがあります。
また、「ラフラ」というシンプルケアのブランドは、化粧品にも関わらず、ステップを減らしていくことや、成分を入れすぎないことをポリシーとしています。
これは、ブランドを作った当初、創業者が化粧品を店頭で販売していた際に、肌がきれいな人ほどシンプルな化粧品を使用していた経験に基づき、「不要なステップや必要のない工程を省いた商品でも肌がきれいになるということを伝える」という思いからブランドが作られました。
ブランドの起源からスタートし、ブランドがどのような未来を描いていきたいかをビジョンとして構想し、ブランドの社会的意義(パーパス)を形成する流れでブランドを設計していきます。
ブランドの起源まで遡ってビジョンを定義し、自分たちはどのような役割を果たしているのかという社会的意義(パーパス)をきちんと作れているブランドは、強固なブランドとなります。
長くなりましたが、ここまでがブランドアイデンティティを構成する要素の1つ目であるブランドDNAについてです。
ブランドアイデンティティを構成する要素の2つ目は、ブランドビジュアルです。
ブランドビジュアルは、クリエイティブやビジュアルに関するガイドラインです。
例えば、ロゴ、カラー、タイポグラフィー、フォントに関する規定、ビジュアルのトーンアンドマナー、タレントに関するトーンアンドマナー、テクスチャー(プロダクトショップにまつわる規定)、口調や言葉遣いなどがブランドビジュアルを形成します。
ブランドを立ち上げる順序としては、ブランドDNAを文章で作り上げ、クリエイティブに落とし込む際にビジュアルガイドラインを決定していく順番になります。
ブランドDNAを明確にし、消費者に共感されるブランドを作る
ー商品やサービスを発売する際、どのようにしてブランドの方向性(ターゲット、商品のロゴやパッケージ、カラーなど)や世界観を決めていきますか。
ブランドを形成する上で、商品パッケージやロゴよりも先に、まずはブランドDNAを明確に定めます。
「かっこいいロゴだから」「今っぽいパッケージだから」「流行りのカラーだから」という考えで、デザインありきで、先にロゴやパッケージを決定することはよくありません。
ブランドDNAを作成したあとに、ロゴやデザイン、カラー、パッケージを作成する段階に移行します。
パッケージなどを決定する段階では、「こうでないといけない」という方法はありませんが、よくあるパターンは大きく3つあります。
1つ目は、経営者やオーナー、ブランドマネージャーが、ブランドDNAに基づいて、自分たちのクリエイティビティでブランドDNAを体現していく方法です。
自分たちが過去に見た商品や参考にしている商品をもとに、社内外の制作デザイナーと一緒に作成します。
個人的には、ブランドDNAは事業会社が確固たる信念を持って作るべきなので、この方法が最も事業会社が望んでいることができると考えています。
一方で、社内にマーケティングやブランディングの経験者がいない場合は2つめの方法がお勧めです。
2つ目は、クリエイティブ領域に強いパートナー企業やデザイン会社にクリエイティブ部分の制作をお任せする方法です。
つまり、ブランドDNAをブリーフィングとして使用し、クリエイティブ部分をリードしてもらいます。
クリエイティブに強いパートナー企業は、手を動かすだけのデザイナー陣ではなく、ブランドに対して様々な意見を持たれることが多いので、事業会社がブランドDNAを定義しつつも、パートナー企業と再編しながら進めていくことが多いです。
3つ目は、ブランドDNAで設計した領域に強いインフルエンサーや個人を割り当て、クリエイティブを主導的に設計してもらう方法です。
この方法は最も投資に強いやり方で、アイディアだけを出し、その後は個人や会社に運用してもらいます。
ーブランドの世界観などを、どのようにして消費者に伝えていますか。
消費者に世界観を届ける理想的な方法は、ブランドのビジョンや意義を伝えていくことです。
ブランドとして、製品を通じて、どのような社会にしていきたいか、どのように消費者をサポートしていきたいか、を発信していきます。
ブランドのビジョンや目的が明確であるほど、人々の応援や共感を得られます。
世界観を理解し、応援してくれる人に訴求し、製品を認知してもらい、コミュニティを作っていきます。
コミュニティが拡大したら、広告活動を通じてブランドを認知してもらい、消費者の興味関心を広げていきます。
最も大切なのは、ブランドのビジョンやパーパスの解像度を高めることです。
ブランドのビジョンやパーパスの解像度を明確にすることで、共感してくれる消費者と接点を持つことができるようになります。
現実的には、新規ブランドがビジョンを語っても、多くの人に一様に刺さることはないので、上記の通り、まずは応援してくれる人を一人、二人と徐々に増やしていくことが大切です。
量的調査を通じて、ブランドイメージを統計的に評価する
ー消費者がブランドに対して抱く印象やイメージなどは、どのように調査していきますか。
ブランドイメージは、量的な調査を実施すると良いと思います。調査は、1回きりの施策ではなく、定点観測をします。
具体的には、まず、製品が存在するカテゴリにおける重要指標を挙げていきます。
例えば、シャンプーであれば、フケが出ない、つやが出る、うるおいが出る、香りが良いなどの「そのカテゴリーの製品を選ぶ上での指標」や、使うとワクワクするといった「情緒的な指標」、環境にエコであるなどの項目を織り交ぜて、シャンプーを購入するときに重要視することを質問します。
また、それらの指標の中で「当該ブランドに当てはまるものはどれですか?」という量的な調査を行っていきます。
例えば、90%の人が「当該ブランドはエコなブランドである」と答えると、多くの人がエコで地球に優しいブランドであるというイメージを抱いていることが分かります。
このようなデータを競合と比較し、定点観測していくことで、ブランドが持つイメージやアイデンティティを可視化することが可能です。
ブランドイメージに関する調査は、質的に行うと統計的に見ることができないため、量的に調査することが重要です。
ーブランドに対するロイヤルティや好感度といった、「一見わかりづらい概念」を調査することは可能ですか。
ブランドに対するロイヤルティや好感度も調査することが可能です。
ロイヤルティは主に2つの要素で測定することができます。
1つ目は、そのブランドがリピートされているかどうかを見ます。
多くのブランドでは、一度購入してもらうことにエネルギーを割いています。
CPAの目標値を持ち、1度目の購入を追い求めることは良いことですが、何%の人が2回目を購入してくれたかという調査をすることも当然大切です。
リピートされているかどうかが高いのか低いかを調査することは、ロイヤルティを把握する基準となり、製品開発のヒントや、CRMのアプローチの参考になります。
2つ目は、SOR(share of requirement)と呼ばれる指標です。SORとは、ある商品カテゴリにおいて年間で購入する個数のうち、当該ブランドが何%を占めているかという指標です。
例えば、消費者が年に10本シャンプーを購入する時に、うち3本がDOVEであれば、DOVEのSORは30%になります。
デジタル領域ではLTVを調査することが多いですが、年間の購入数に対する購入比率を見ると、ブランドに対するロイヤルティを理解することができます。
また、好感度を調査する際には、端的に「ブランドを好きですか」という質問をします。
しかし、好感度は購入に直接関係のない指標であり、短期的な売上に繋がるとは限りません。
中長期的に見るとブランドが好かれているかどうかは大切ですが、即時性という観点で見ると好感度は売上に直結しません。
例えば、「BMWを好きか」という調査を行うと、多くの人が「好き」と答えますが、好きと答えた全てのユーザーが購入するとは言えません。
好感度と同時に見ると良い指標として、「購入意向」「次回購入意向」「NPS(Net Promoter Score:人にどの程度おすすめするか)」があげられます。
購入意向は「当該ブランドを購入したいと思いますか?」という質問で測定し、売上と相関があります。
次回購入意向は、「次回同じカテゴリで商品を購入するときに、当該ブランドを購入したいと思いますか?」という質問で測定します。
たとえユーザーに購入意向があっても、何回後に購入するかは分からないため、次回購入意向は購入意向に比べて売上との相関が強く現れ、かつ短期間で成果に繋がる傾向にあります。
NPS(Net Promoter Score:人にどの程度おすすめするか)は、売上と強い相関を示すわけではありませんが、調査を行うターゲットが製品を買う本人ではない場合があるため、重要な指標になります。
例えば、男性用シャンプーに対する調査を女性に行った際には、購入意向は低くなりますが、NPSは高くなる傾向になります。
上記のように、好感度やロイヤルティを調査していくことは重要ですが、調査の設計に応じて他の指標と併せて見ていくことが重要です。
ーブランドイメージとは異なる、別のブランドイメージを消費者に持ってもらおうと考えた場合、どのような努力が必要ですか。
ロゴやカラーだけの変更は、本質的な変更にならないため、ブランドDNAから根本的に設計し直す必要があります。
ブランドDNAは変えずに、イメージだけを変更したい場合は、これまでのマーケティング投資以上の投資をしない限り、イメージを変えることは難しいです。
ブランドイメージは蓄積されるものなので、これまで蓄積されてきたイメージを変更するだけの新しい認知を取る必要があります。
ー特にデジタルマーケティングファーストの製品やサービスなどは、ブランドイメージなどよりも先に、利益をあげることが優先されていると思います。
このような会社を支援する際に木村さん自身が特に意識していることはありますか。
デジタルマーケティングを中心にやられているブランドであるからと言って、特別マーケティングのやり方を変えることを意識することはありません。
前提として、デジタルマーケティングを中心に利益を上げていることはとても素晴らしいことです。
明確なユニットエコノミクスのKPIを持って成果を可視化していくことは、実は大手の会社では行っていないプロセスである場合もあります。
一方で、デジタルマーケティングを中心に広告活動をしているブランドの多くは認知率が低く、Web上で獲得できる売上や認知率、ユーザー数に限界があるのも事実です。
これまでブランド作りに力を入れてこなかったブランドでも、「ブランドをさらに拡大したい」というタイミングで、新たにブランドアイデンティティを形成する、または一新してマーケティング投資を実行していくことで、さらにブランドを拡大することができます。
したがって、それまでブランド作りと利益のどちらを先行してきたかは、重要ではありません。
大切なことは、認知が大きく確保されていない段階、つまりなるべく早い段階で、適切なブランドアイデンティティの設計を準備することです。
少なくとも私の経験では、ブランドイメージを形成することなく、利益を上げることだけを優先して十分な認知率を取れているサービスは見たことがありません。
したがって、事業が拡大するにつれ、確固たるブランド作りは、必ず必要になります。
ブランドマーケティングへの投資を伴走するパートナー
ーBrandismではどのようなサービスを展開していますか。
Brandismは、ブランドマーケティングを通じて、クライアントの売上と利益を最大化させることを強みとしています。
ブランドアイデンティの領域では、主に以下の2つに強みを持っています。
クライアント様のマーケティング・ブランド担当者として、
・ブランドアイデンティティ構築全体のリード
・現状のブランドイメージの把握・モニタリングなどの調査全般
これらの工程でお悩みの方は、是非ご連絡ください。
ーブランドイメージをはじめとしたマーケティング業務にお困りの事業主の方にメッセージをお願いします。
ブランドマーケティングへの投資は、会社にとって大きな意思決定になります。
新規事業でも、リブランディングでも、リターンもリスクも大きいため、経営陣やマーケティング責任者を含めてフルコミットで取り組むべき施策になります。
社運をかけた投資になると思うので、経営者・マーケティング担当者の皆様が妥協せず、良いアウトプットを出せることを応援しております。
その際に、力強く併走していくパートナーとして、Brandismを選んでいただければ、必ず良い結果を生み出せると信じています。
ご興味のある担当者の方がいらっしゃいましたら、是非一度ご相談ください。