テレビCMをはじめとするマス広告へ出稿を検討する際、費用対効果や認知率、CV率といった指標に疑問を抱くことがあるのではないでしょうか。
広告の分析と聞くと、クリエイティブ一つひとつの成果が確認できるデジタルマーケティングが思い浮かぶかもしれません。
デジタル広告に対して、マス広告は、費用対効果が測定しにくいと思われることが多いのが現状です。
本記事では、ユニリーバで長年消費材ブランドのブランドマーケティングを経験したBrandism代表の木村に、マス広告の「費用対効果」や「認知率と売上の関係」についてインタビューしました。
テレビCMを出稿する際の費用対効果とは
ーまずはじめに、企業とマス広告の関係について教えてください。
マス広告(テレビ広告、ラジオ広告、新聞広告、雑誌広告)に限らず、広告の役割は、製品やサービスの認知、理解、問い合わせ、購入などの一連の流れにおいて、顧客とのタッチポイントを増やすことです。
マス広告は、デジタル広告に比べて多くの人に幅広くリーチすることができる手法で、ユーザーの興味関心や認知と相性が良い広告です。
しかし、「マス広告=認知獲得」という考え方は誤りです。
広告として機能させる以上、最終的なコンバージョン(購入や登録)を意識する必要があります。
認知を獲得したうえで、コンバージョンにもつながる広告であるべきだと考えています。
もちろん、事業の段階や広告出稿の目的に応じ、認知率に特化する場合もありますが、理想は、コンバージョンまで一気通貫で取りに行けることです。
コンバージョンの定義によりますが、広告を見た後にブランド名の検索をしてもらう、あるいは近くのお店にすぐに商品を買いに行ってもらうことが、ブランドの認知に留まらずにコンバージョンまで繋がっている広告と言えます。
スタートアップ企業でよくあるパターンですが、ほぼ全ての予算をデジタル広告に投じる段階から、マス広告への広告費が増えていく理由や目的は明確であり、リーチの拡大と、効率改善を試みています。
日本国内のマス広告(この場合は特にテレビ広告)は、リーチできる人数が多く、一人あたりへのリーチ単価は、一般的にデジタル広告よりも安くなります。
したがって、より多くの人に効率よく自社の製品・サービスを伝えたいときにマス広告を活用することになります。
ーマス広告に出稿する際の費用対効果についてどのように考えていますか。
マス広告の費用対効果は、出稿時の設計によって大きく異なります。
例えば、テレビCMは、CPM(Cost Per Mille:1,000回視聴あたりの広告単価)はデジタル広告よりも安くなり、本来であれば費用対効果は高くなるはずです。
しかし、マス広告を出稿する際には、デジタル広告に使う何十倍ものコストを投下するため、広告に投資した資金を短期間で回収できるかどうかは、広告の設計の仕方次第になります。
設計方法によっては、リーチ単価が安くなってもコンバージョンに至らず、費用対効果が悪くなるケースも多々あります。
少し極端な例として、一万円のシャンプーを売ることを考えます。
一般的に、一万円のシャンプーを買う人は、数百円のシャンプーを買う人よりも少ないため、ベネフィットやブランドの世界観を伝えるターゲットの人数はかなり絞られています。
したがって、一万円のシャンプーを販売する場合、少ない見込み顧客に集中的に広告を配信する、もしくは広告を出稿せずに、実店舗に来店したお客様にのみ接客をすることが一般的です。
ここで、一万円のシャンプーをより多くの人に買ってほしいと考え、幅広い人に向けてマス広告を打つと、その製品や広告がどれだけ素晴らしくても、全く興味がない人にも広告が届く可能性が高いです。
興味がない人に広告を配信することで、リーチ単価が安いとしても、結果としてコンバージョンにはほとんど繋がらないので、マス広告を出稿する費用対効果は悪くなります。
同様の例として、BtoBサービスの例を用いて説明します。BtoBのサービスを、多くの企業に導入してほしいと考え、テレビCMを出稿することがあります。
テレビCMはマスメディアであり、ターゲット以外の人にもリーチすることになります。シャンプーの例と同様に、ターゲット以外の人が何回広告を視聴しても、企業の売上にはつながりません。
ターゲットのみにピンポイントに広告を見せるデジタルマーケティングの方が、費用対効果が良い場合があるのは、こうした背景があるからです。
したがって、マス広告を出稿する際には、「誰に広告を見せるのか」「広告を見たユーザーに何をしてほしいのか」という綿密な設計を事前に行う必要があります。
綿密な設計を怠ると、リーチ単価が安いからと言って、必ずしもコストパフォーマンスが良くならない点に注意が必要です。
ーマス広告の成果は、どのくらいの期間で現れることが多いですか。
商品カテゴリや業種で異なりますが、商品やサービスを購入する期間やサイクルで考えてください。
ざっくりとした目安ですが、消費者の購入頻度の2~3倍の期間が経過してから成果が出る傾向にあります。
例えば、食パンのテレビCMを出稿することを考えます。消費者の食パンの購入頻度が週に1回だとすると、およそ2~3週間の間にテレビCMの効果を実感することが多くなります。
一方、車のように、購入頻度が低い商品は、テレビCMの効果が出るまでに長時間かかる傾向にあります。
もちろん、テレビCMはたくさんの人が見るので、テレビCMが放映されている期間や認知率が上昇している期間は、売上が立ちやすくなります。
しかし、広告の成果は、商品の購入頻度に比例する側面があります。
したがって、購入頻度が少ないにも関わらず、テレビCMを出稿した瞬間に成果を求めることは現実性に欠けています。
また、購入頻度が少ない商品の広告を制作する際は、「視聴者が広告を忘れてしまう」という観点に特に注意が必要です。
人は物事を忘れてしまうため、次回購入するタイミングで広告を忘れている可能性があります。
そのため、マス広告は、一度だけの出稿で終わらせるのではなく、継続的に出稿することで効果を得られやすくなります。
購入頻度が少ない商品・サービスであるほど、継続的に認知を獲得していく必要があります。
売上につながる認知率とは
ーマス広告の効果測定に用いる主な指標を教えてください。
マス広告の効果測定に用いる指標として一般的に用いられるのは、認知率です。
認知率は、デジタル上で常に確認することができない指標で、外部調査や調査プラットフォームを使って定点観測します。
また、商品カテゴリ内における第一想起も大切な指標です。第一想起は、認知率の質と考えられます。
他にも、外部の会社に依頼せずデジタル上でトラッキングできる指標として、指名検索数、サイトへの流入数、販売ページへの訪問数もマス広告の指標として見ることができます。
ただし、テレビCMを出稿している期間中に、デジタル広告の出稿を拡大するといった別の要素で流入が増えている可能性があります。
そのため、純粋なテレビCMの効果を見ていくためには、他の広告の運用状況も踏まえる必要があります。
テレビCMを出稿することの副次的な効果として、CPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)の低下、CTR(Click Through Rate:クリック率)の向上、CVR(Conversion Rate:コンバージョン率)の向上といった、デジタル広告へのプラスの影響があります。
テレビCMを出稿することで、ユーザーが頻繁にデジタル広告をクリックすることになり、CTRが向上します。
さらに、テレビCMによってサービスのベネフィットが伝わり、コンバージョンに至るユーザーが増えることでCVRが向上します。
CTRとCVRの両方を向上させることは一般的には難易度が高いです。しかし、テレビCM内でブランドへの信頼やベネフィットをうまく伝えられれば、CTRとCVRがどちらも向上する可能性は十分あります。
上記で述べた他にも、例えば消費材のブランドは、店頭でのオフテイク(消費者が実際に商品を購入する数)も重要な指標として計測しています。
ほとんどの消費材メーカーは、オフテイクを増加させるためにテレビCMを出稿しています。
広告の中でベネフィットを正確に伝えることができれば、オフテイクは分かりやすく見えてくる効果の1つです。
ー売上と認知率にはどのような関係があるのでしょうか。
中長期的に見ると、売上と認知率は相関があることは、データで証明されています。
認知率と売上の間に相関関係があるにも関わらず、認知率が上昇しても売上が上がらない場合には大きく2つの原因があります。
1つ目の原因は、効果を測定する期間が短かすぎることです。
例えば、認知率が5%から2倍の10%に上昇したにも関わらず、売上に変化がないとき、商品の購入頻度と効果測定の期間が合致していない可能性があります。
広告を打った瞬間に認知率が上昇しても、商品の購入頻度と効果測定を行う期間が合っていなければ、効果の測定期間中にコンバージョンが発生する可能性は低くなり、売上の変化を確認することができません。
したがって、効果を測定する期間が、商品の購入頻度に合わせて適切に設計できているかを確認することが重要です。
効果測定を行う期間を適切に設計し、認知率が上昇しているにも関わらず売上が上がらない場合は、広告の中でベネフィットを伝えられていない可能性があります。これが2つ目の原因です。
例えば、広告内でサービス名を連呼するだけのブランドは、認知率だけが上がり、売上が上がらない場合があります。
たとえサービスの存在が知られていても、どのような商品か分からずベネフィットが伝わらない時は、売上の増加につながりません。
ベネフィットが商品を購入する理由を正確に伝えることではじめて売上に反映されるため、クリエイティブの設計は重要です。
ー認知率の「質」は、売上にどのような影響を与えますか。
認知率は大きく分けて、助成想起率(じょせいそうきりつ)、純粋想起率(じゅんすいそうきりつ)、第一想起率(だいいちそうきりつ)の3つの種類があります。
助成想起率とは、「この商品を知ってますか?」という質問に対して「はい」と答えた人の割合です。
純粋想起率とは、「商品カテゴリーの中で、知っている商品を教えてください」という質問に対して、ブランドの名前が挙げられた割合です。
第一想起率とは、純粋想起をしたときに、1番最初に当該ブランドが思い浮かべられた割合です。
助成想起率はもちろん重要ですが、売上に繋がるのは純粋想起率です。
例えば「ビールを飲みたい」と考えたときに、最初に選択肢に入るのは純粋想起をした際に名前の挙がるブランドです。
助成想起は、「このブランドを知っていますか?」と言われて初めて選択肢に入るブランドなので、助成想起率が高いだけでは、売上に直接結びつけることは難しくなります。
ブランドを作っていく順序としては、まずは助成認知率を高め、次に純粋想起率を高める施策を考えます。純粋想起率を高めることが出来たら、最終的にカテゴリー1位のブランドとなるために、第一想起をとるためにどのようにすべきかを考えます。
ー認知率の質は、どのように計測していますか。
認知率の調査は、量的調査で行うことができます。最近では、インターネットのリサーチでも調査が可能です。
しかし、認知率を継続的に調査しているブランドは少なく、調査しているブランドでも、助成想起率の取得に留まっていることが多いのが現状です。
ーブランドに対する消費者の認知を保つためには、広告を打ち続ける必要がありますか。
消費者の認知を保つ上で、広告は出稿し続ける必要があります。
消費者のカテゴリーへの寛容度、ブランドの歴史の長さ、クリエイティブの質で千差万別ですが、一般的に、テレビCMで流れている広告は、視聴者には約3か月で忘れられます。
そのため、今日見た広告の説明やパッケ―ジは3か月後にはほとんど覚えられていないことになります。
せっかくテレビCMで認知を獲得しても、仮に半年間商品を購入する機会が無い場合、半年後に商品を購入するときには選択肢から外れてしまいます。
したがって、忘却されることを前提に、広告を出稿し続ける必要があります。
多くの企業がテレビCMを放映し続けているのは、認知を確立するためではなく、見込み顧客にブランドを忘れさせず、選択肢に入り続けるためです。
例外として、季節性のある商品やサービスは、販売を拡大する季節に多くの広告を流しています。
ふるさと納税に関するサービスや、クリスマス前のおもちゃ屋さん、ランドセル販売会社のように、特定のタイミングで大規模な購入を促したい場合は、1年中広告を出稿し続ける必要はありません。
ー「広告の認知率を維持する」という観点のみで考えると、同じ広告を流し続けた方が良いのではないかと感じます。同一のサービスで、広告クリエイティブの入れ替えを行うのはなぜですか。
基本的に、広告クリエイティブは変えすぎないほうがよいと考えています。
ブランドを覚えてもらうために、キャラクターやブランドの名前が入っている広告を流すという前提があるためです。
1人のユーザーは、3~7回同じ広告を見て、ようやく広告を覚えます。
また、3~7回であれば、CMに対する嫌悪感も少ないため、1人のユーザーが広告を見る頻度は3~7回を目安に設計します。
テレビCMの広告クリエイティブを頻繁に変更する会社があるのは、フリークエンシー(ユーザーが広告を視聴する頻度)の上限を設定しているためです。
同じ広告を見続けると、ユーザーは不快に感じる、または広告に対して何も感じなくなります。
それぞれの企業は、ユーザーが1つの広告を視聴する上限回数を設定し、視聴回数が上限に達するタイミングでクリエイティブを変更しています。
例えば、携帯電話会社であるauの広告は、同じキャラクターが出演するテレビCMを、内容を変えて出稿し続けています。少しずつ内容を変えることで、ユーザーが不快に感じることを防いでいます。
しかし、多くの企業では綿密な計画を立てることなく、広告代理店任せでテレビCMを流しているのが実態です。
昨今のベンチャー企業のマーケティングにおいても注意すべき点があります。
予算制約が多いベンチャー企業が、デジタルマーケティングと同じ感覚で、フリークエンシーが十分に出てないクリエイティブをすぐに入れ替えているパターンを見かけます。
フリークエンシーの出ていない広告クリエイティブを頻繁に変えることは、広告の効果が低減することにもつながりうるので、マス広告を出稿する際には、全てを広告代理店に頼るのではなく、事業主側で広告の設計をする必要があります。
ークリエイティブの入れ替えを行う時の判断は、どのような指標をもとに行っていますか。
大きく2つの判断軸をもとにクリエイティブの入れ替えを行います。
1つ目はフリークエンシーです。フリークエンシーについては先ほど述べたように、1人のユーザーが1つの広告を何回見るかというデータです。
2つ目は、認知率や指名検索数の上昇具合です。
1つのクリエイティブで広告を出稿し続けたときに、認知率が明らかに鈍化することがあります。
認知率の伸びが鈍化してからクリエイティブの変更を行うのでは手遅れですが、認知率や指名検索数は、クリエイティブを入れ替えるにあたって大切な指標になります。
マス広告の出稿を成功させるために
ーここまで、マス広告の費用対効果や認知率についてお話を聞きました。マス広告に着手する上で、Brandismはどのような点に強みを持っていますか。
Brandismは、正しいブランドマーケティングを行うことにより、クライアントの売上と利益を最大化させることを強みとしています。
マス広告を検討する段階では、主に以下の3つの価値を提供することができます。
1. マス広告におけるKPIの設計
2. KPIを達成するためのメディアプランの構築
3. 効果を最大化するための、マーケティング起点でのクリエイティブ制作(あるいは制作のためのブリーフィング)
これらの過程でお悩みの方は、是非ご連絡ください。
ー最後に、マス広告の出稿にお困りの方にメッセージをお願いします。
マス広告は、企業にとって非常に大きな投資です。
これまでマス広告への出稿を実施したことのない企業様にとっては、社運をかけた大きな施策になるでしょうし、実施している企業様にとっては、ほんの少しの改善でも、大きな売上や利益の増加が見込める領域だと思います。
マス広告は、実施する目的や、それに伴うKPIの設計が大きな鍵になります。
マス広告を出稿する上で、クリエイティブ制作やメディアの買い付けは広告代理店経由で行うとしても、社内の経営陣やマーケティング部門が強いコミットをし、代理店以上の知見を持って進めていくことが成功の秘訣だといえます。
その際に、力強く併走していくパートナーとして、Brandismを選んでいただければ、必ず良い結果を生み出せると信じています。
ご興味のある担当者の方がいらっしゃいましたら、是非一度ご相談ください。