テレビCMをマーケティングに活用し、ビジネスを成長させる方法

ブランドマーケティングを支援していくなかで、テレビCMを活用するパターンは大企業、ベンチャー問わず数多くあります。

ベンチャー企業を中心にGoogleやFacebookなどのデジタル広告は使用したことはあっても、テレビ広告は使ったことはないので相談したいとご連絡をいただくことが増えてきました。

テレビCMとデジタル広告では考え方が大きく異なるため、使い方を知らないとせっかくの広告投資が無駄になってしまいます。

これまでメガブランドやWEBサービス、D2Cブランド、BtoCサービスやBtoBサービス含め幅広くやってきた経験をもとにテレビCMのうまい活用法についてお伝えします。

特にデジタル広告中心でマーケティング活動をされてきた方にとっては必見の内容となっておりますのでぜひご覧ください。

テレビCMは一人あたりのリーチ効率が良い

―テレビCMにはどのような特徴があるのでしょうか?

テレビCMは最もリーチ効率がいいという特徴を持つマスメディア広告です。

リーチ効率とは、自社のブランドだったりサービスだったりを展開させるうえで、顧客一人あたりに広告を接触させるためにかかるコストのことです。

テレビCMは顧客一人あたりにかかるコストが最も安く、リーチ効率が良いメディアとなっています。

リーチ効率を考える際に、cost per mille の頭文字をとったCPMという考え方があります。テレビにおけるCPMとは、1,000人に見られるのに必要な広告費のことです。

インターネット広告の場合は、掲載1,000回あたりの広告費になり、1,000回のimpressionのために必要なコストになります。

なお、テレビにおけるCPMは、次の計算式で求めることができます。

CPM=(広告費/見られた人数)*1000

カテゴリーや時期、広告内容によりますが、CPMをおおよその数値であらわすと、テレビでは400円程度、Youtuberのバンパー広告(6秒)で300-500円程度、YouTubeインストリーム広告(15秒以上)で800円以上~1500円程度となっています。

デジタル広告をされたことがある方にとっては、このCPMをご覧になられると、顧客へのリーチ効率の面において、テレビCMはコストパフォーマンスが良いことが数値的にもおわかりいただけるのではないでしょうか。

 

―放送地域をエリアで絞ると高かったり、コストパフォーマンスが悪くなったりすることはあるのでしょうか?

エリアや、TVの入稿状況によりますが、実績がある代理店と適切な購入ができれば、400円から500円くらいでマネージできると思います。

放送局に対して、TVの枠を実際に購入していくプロセスになるため、当然、大手のように大量にテレビCMを発注するほど、広告代理店も交渉しやすくはなり、コストメリットが生まれることは事実としてあります。

繰り返しにはなりますが、テレビCMは一人あたりにリーチさせるには、現時点で非常に安いメディアです。

日本は、テレビCMのコストが安いという事実に加えて、デジタル広告の価格が急激に高騰していることから、相対的にテレビCMのコストパフォーマンスが良くなっています。

現在の日本は、アイデアさえあれば、製品やサービスが、容易にローンチできる時代になっています。

プロダクト開発後、最初に打ち出す手法としては、デジタル広告が大多数を占めています。

デジタル広告はエントリーしやすい一方、競合が多すぎるがゆえに、入札単価が高く、コストパフォーマンスが悪くなってきているのは、事業者・広告代理店の皆様は肌で感じていらっしゃると思います。

今後はわかりませんが、少なくとも2021年現在までは、テレビCMは価格が変動しにくく、むしろ直近では、シーズンによっては、価格が落ちている傾向すらも見えています。

放送局としては、デジタルに1回の発注単価を下げて発注しやすくしようとしている動きも見られることから、ますますコスパがよくなってきており、テレビCMを活用するチャンスと言える時期になってきているでしょう。

テレビCMで質の高い認知を獲得する方法

―テレビCMは認知を獲得できる広告なのでしょうか?どのような広告制作を行えばいいのでしょうか?

広告の中身がきちんと設計されていれば、しっかりとした結果が得られます。

まず、構成を考えるにあたり、ブランドの名前やパッケージ・ロゴの認知は最優先すべき事項です。

加えて、広告を通じてブランドへの共感や、購買意欲も獲得するような設計にする必要があります。

まず、広告を通じたブランドへの共感とは、好意度との言い換えることが出来ます。

ブランドの名前を言っているだけのテレビCMだったとしても、ブランドの名前の呼び方にインパクトがあり印象に残ったり、出演しているタレントや、ビジュアル・音楽などが、好印象だったりすれば、広告やブランドを好きになることに繋がる可能性はあります。

好意度を残すこと、すなわち無関心・嫌い・好きと、見たものに対する知覚が分かれた時に無意識に「好き」に選択してもらうことは、テレビCMにおいて、最低限抑えるべき、大切なことです。

次に、最後の段階の購買につながる「買いたくなる」「使いたくなる」というのは、ベネフィットが伝わるかどうか、すなわちサービスの便益が伝わるかどうかに直結しています。

短い広告をみて、ブランドの認知からページ訪問や購買などのアクションをしてもらうために、便益が伝わる必要があります。

たまに、ストーリーに余韻を残したり、あえて便益を語らないことよって、「続きはWEBで」と、ユーザーにアクションを促す広告を見ますが、基本的にワークしないことが多いです。

一番コストパフォーマンスが良い方法は、顧客のインサイトに対してぶつける便益、便益を支える根拠であるRTB(Reason To Believe)が明確に、一つの広告内で、しっかりと完結していることです。

だからこそ、P&Gやユニリーバなどのマーケティングが強いと言われている会社にはある程度テレビCMを作成するときのフォーマットがあります。

 

―何も広告を使用しないと認知をキープすることは難しいのでしょうか?

難しいです。

大前提として、記憶は時間と共に薄まっていきます。

TVCMの例でいくと、数度見てしっかりと認知した広告であっても、その後2-3ヶ月一切接触がないと、忘却してしまいます。

広告接触などにより構成される認知の曲線と、忘れられてしまう忘却曲線の双方をコントロールしながら認知を形成させなければいけません。

ブランドの認知とは2つの要素で構成されています。

1つ目は、ブランドを使用するたびに思い出すという認知です。

2つ目はメディアで触れることによる認知です。実際に買ってなくても、使い続けていなくても、テレビCMなどのコミュニケーションを通じて目に触れたりすることで脳に残っているような認知です。

もちろんブランド使用による認知形成が理想ですが、使用のためには、常にカテゴリー内におけるユーザーの選択肢の中にそのブランドが入っておくことが大切です。

広告等によるユーザーとの接触が減ると、そもそもブランドを使用する、という行動にも繋がる可能性は低くなります。

また認知を理解する上で重要な要素として、認知にも質があるということです。

ブランド認知は、「○○を聞いたことがある、知っている」というシンプルなブランド認知である助成想起と、「ハンバーガーショップといえば○○」といったように頭に思い浮かぶブランド認知である純粋想起、そして、「ハンバーガーショップといえば○○」と一番に思い浮かぶブランドである第一想起があります。

ハンバーガーのチェーンはたくさんあります。

多くの顧客がハンバーガーというと、最初にマクドナルドのことを思い出すのは、テレビCMで見ていたり、道に看板があったり、何らかの接触があることが必要です。

意識していなくても、無意識のうちに広告を中心としたブランドとの接触を通して第一想起を作り込んでいるのです。

単に知っているからといって、思い出されなければ購買には繋がりません。

このように、顧客との接触を怠れば、純粋に認知度が落ちるだけではなく、純粋想起が取れず、購入には繋がりません。

製品の購入周期別、テレビCMアプローチ戦略

―ブランド認知から、製品の購入までの期間はどのように考えたらよいでしょうか?

カテゴリによって大きく異なりますが、テレビCM等で接触をし続けている前提のもとであれば、その製品のカテゴリの購入周期の3回分くらいは見たほうがいいでしょう。

具体例として男性用の洗顔を例に考えてみます。1ヶ月に1回買うとしたら、だいたい認知から3ヶ月(1ヶ月×3回分)くらいを見ておく、ということです。

他にも、例えば年間に24回買われるものであれば、1回の周期が短いので購入は6週間後くらいとみておいたほうがいいでしょう。

なぜかというと、世の中の人は商品を認知したとしても、衝動買いの場合を除き、すでに購入している製品やブランドがあるため、すぐに切り替えないからです。

大抵の人は「〇〇がなくなったから、買いにいかなきゃ。次、買うときは、テレビCMで見た△△を買おう」という動きをとります。

2回目の購入時期には、顧客は比較検討を行います。無意識のうちに今使っているブランドなのか、それとも新しく知ったブランドなのか、何を次に購入するべきか、多くの選択肢の中から考えます。

認知はしていてもスイッチさせることは簡単ではなく、2回目で購入させることができないケースもよくあります。

しかし、3回目購入時期になり、まだそのブランドが頭に残っている場合は、購入される可能性は比較的高まります。

もちろん、3回目購入検討時にも、それまでの期間にテレビCMなどによる接触が続いていることで、認知度も高まり、好意度・共感が得られている前提ですが、顧客は選択・検討の連続ですので、その時点で知覚に残っているブランドは手にとってもらえる可能性が出てくるのです。

逆に購入周期の3回目までに購入にいたらなかった場合には、それ以降も結果は出にくいと言えるでしょう。

大手企業であれば、購入周期まで調査をし、購入のボトルネックになっているのはどこか調査します。

 

―何回CMをあてるかは物によって違うのでしょうか?

はい、違います。覚えやすい広告と覚えにくいにくい広告があるためです。

また、ターゲットが若い世代か、年配の方かなどの差もあります。

覚えやすいカテゴリの広告として、日清食品のカップヌードルの即席麺などの商品があります。非常にインパクトのある広告構成になっており、一度見たら口ずさんだり、メロディーやビジュアルが頭に残っているという方も少なくないと思います。

この場合は、フリクエンシーが高くなくても、3-5回くらいで認知してもらいやすい傾向にあります。

一方で、世の中であまり知られていないような企業や、ターゲットに親和性がない商材の場合には、8回から10回ほど認知に必要になる傾向があります。

これに関してはデータベース化されていないため、だいたい何回でブランド認知が取れるかは自社で分析するしかありません。

大手代理店さんの方では、洗剤、シャンプー、アパレルなど分野ごとに平均値データをとっています。

 

―木村さんはecforceのテレビCMも担当していたと思いますが、そのような購入周期が関係ない商材のCMはどのような考え方をしたらいいのでしょうか?

toBにおけるテレビCMは考え方や戦略がこれまで説明してきたものとは、少し異なります。toB商材の広告において重要なことは大きく3つに分けることができます。

1つ目はtoCの商材と似ていて、そのブランドを知っているかどうかという、純粋な認知率を上げるためにCMを使う考え方です。

例えば、定量調査によって、ecforceのEC業者への認知率は、主要競合と比較してギャップがあることが分かっています。

ecforceという名前を知らない会社は、当然ですが、そもそもecforceが候補に上がってこないため、これらの会社に対して機会損失していると言うことができます。

この数字のギャップをどのようにうめていくかが重要になってきます。

まずは認知率をあげ、クライアントがサービスを選ぶ際の土俵にのることを目指します。

2つ目は、サービスを認知した上で、信頼に値すると判断してもらうことがtoBにおいては重要になります。

特にMAツールやSaaSなどは世の中にあふれているため、「この会社なら月にいくら払ったらこういうバリューがでてくるだろう」ということが、テレビCMを打ち出していると理解しやすくなります。

テレビCMに信頼醸成、権威付けとしての役割を持たせるという考え方です。

認知度を上げるためには、テレビCMだけではなく、他の方法も多くあるかもしれませんが、マス広告であるテレビCMは信頼づけのチャネルとして抜群の効果があります。

新聞もそれに近い要素があり、新聞広告とテレビCMというのは信頼、権威の獲得に寄与します。

3つ目は、toBにおいてとても重要な「パートナー」という考え方です。

ecforceであれば、第三者的な関係会社が、自信を持って紹介できる会社になるための広告ということです。

パートナー制度を組んでいくときに、ecforceを押し出したいと思ってもらえるようなパートナーへの信頼を獲得することが必要になります。

この時、パートナーは直接クライントになることもありますし、間に代理店が介在する場合もあります。

具体的には、フードデリバリーのWolt(ウォルト)が、必死にテレビCMを打ち出しているのは、対uberとして顧客へのアプローチの目的もありますが、運ぶ人や飲食店等のパートナーへのアプローチも重要な目的になっているのではないかと考えています。

実は上記の2と3の考えは、toCにも非常に重要になってきます。販売のパートナーである、卸店や小売店からの信頼を得て、店頭で製品を担いもらうために、「TVCMを放映する」ということは、現時点でも圧倒的に強い説得手段になっています。

認知を正確に調査するには?

―認知はどのように調べたら良いのでしょうか?

方法は複数あります。一番シンプルな方法はアンケートパネルを使用して、ゼロパーティーデータを収集するものです。

ターゲットになりうるすべての人を母集団にして、顧客に対して量的なリサーチをするのが一番良いと思います。

例えば、女性用のマスブランドのシャンプーであれば、ターゲットにしている世代女性全員を母数にして調査をしていくこととなります。

一方、toBの製品、サービス、SaaSビジネスを展開しているものでしたら、ターゲットはEC関連の業務をしていて、メーカーの人、そして彼らが母集団になります。

 

―ターゲット全体が母集団になる場合ターゲットはどのように見つけるのでしょうか?

ユーザーパネルを使用するのがいいでしょう。

ユーザーパネル調査とは、リサーチ会社に依頼して、リサーチ会社が保有する何万人何十万人というユーザーパネルに対してアンケート形式で行う調査です。

ユーザーパネルは、調査会社によって大きなものから小さなものまで、マスに強いものからセグメントごとにニッチに強いものまで様々あります。

どのパネルを使用するかは、商材やサービスにもよりますが、基本的には多くの日本人が使用しているLINEでの調査でカバーできるでしょう。

数多くいるターゲットの中から、どうやって自社製品・サービスに適したターゲットを絞るかについては、フィルターかけて質問する方法をとります。

例えば事業者の中でも、販売者ですか、アフィリエイターですか、などといった質問でフィルターをかけることで精度を上げて調査をすることができます。

パネルの母数が大きいので、相当ニッチな対象者に絞り込まない限り、フィルターをかけても統計に足りる人数に調査ができると考えて大丈夫です。

 

―調査をする上で、有効な人数はどのくらいなのでしょうか?

ある程度正確といえるには1,000人以上が必要となりますが、統計的には600人くらいの調査データがあれば良いと言われています。

toCのサービスであれば600人あれば十分だと思います。

 

―600人に調査をするのはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?

10問くらいの調査であれば、パネル代だけ(調査設計費用は除く)であれば、20~30万で調査でき、正しい傾向を掴めると思います。

テレビCMとデジタル広告の役割を理解し、一気通貫した戦略を立てる

―デジタル広告からスタートしてテレビCMも打ち始めたベンチャーも多いと思いますが、テレビCMとデジタル広告のうまい組み合わせ方はありますか?

繰り返しにはなりますが、テレビCMは、認知を引き上げてリーチ効率をあげることに特化したメディアです。

一方、デジタル広告は2つの役割に分かれます。

1つ目は認知を引き上げ、リーチ効率をあげるための媒体としての役割です。

この場合には、広告バナーや動画広告などを使い、一定数存在するテレビを見ずにデジタル広告だけを見るユーザーの認知を引き上げるために、テレビCMの補助的な役割を果たします。

2つ目はコンバージョンをするための広告としての役割です。テレビCMや屋外広告によって認知させた後に、検討段階のフェーズにある顧客に対して、SNS広告やGDNによって刈り取りを目的としてクリックなどによる誘導を行います。

両者の役割を理解し、広告出稿の時期やフェーズなども考慮した上でそれぞれの比重を検討するようにしましょう。

 

―刈り取りの効率はテレビを使うとよくなるのでしょうか?

よくなります。

ただし、テレビCMの短期間でくぎった投資金額におけるCPO(Cost Per Order)を見ることも大切ですが、基本的に短期では回収できないと考え、こだわり過ぎないでください。

一方で、テレビCMを流している期間のデジタルマーケティングのCPAは下がるようにするべきなので、きちんとKPIを定めて刈り取り効率を見ることが重要です。

もし中長期でみても、よくならないのならば、テレビCMをやっている効果が薄い可能性があり、メディア自体を見直すか、広告のクリエイティブを見直す必要があると思います。

また、TVを中心に広告展開を行っていても、後方射撃のデジタルマーケティングや、セールス部隊などの全てが一気通貫した戦略になっているかを見ていく必要があります。

テレビを流せば、それだけで売上が上がる、ということは基本的に無いと考えてください。

 

―エリアCMはどのようにして使うのでしょうか?

エリアCMの目的はテストマーケティングです。

テストマーケティングは2種類あります。1つはテレビCMが手法として有効かを調べる広告投資に関するものと、もう1つは限定したエリアで商品が売れるかどうかを試すプロダクトテストとしてのものがあります。

広告投資としてのテストマーケティングでは、地方都市で広告を試しに打ち出してみることで、広告の与える効果をコストを抑えながらテストすることができます。

福岡県や静岡県のように、ある程度人口がおり、消費動態としても首都圏に分類されるような都道府県はメディア費用を抑えつつテストすることができます。

東京だと1億円必要な広告でも、地方であれば1,000万円くらいからきちんと効果がでて、有意義なテストマーケティングをすることができます。

エリアでのプロダクトテストとしてのテストマーケティングは、ある製品をそのエリアで実際にローンチしてみることで、商品の反響を実際にテストするものです。

最近の具体例では、コカコーラ社の檸檬堂が上げられます。

檸檬堂は、九州でのテストマーケティングに成功してから全国展開し、見事に成功を収めています。

テレビCMの予算別活用法

―予算別のテレビCM活用法を教えてください。

まず、全国放送のテレビCMをどのくらいの予算から始められるのかという点についてお話しします。

事業の目的やフェーズ、カテゴリによってまちまちですが、テレビだけの施策だと仮定すると少なくともリーチを拡大していくというテレビCM本来の目的をきちんと果たすためには、最低でも1キャンペーンで1億円ないと厳しいと考えます。

ただし、デジタルですでに広告予算を投下している場合は必ずしもそうではありません。

これは、あくまでも私の経験論ですので、少額の予算でも成功しているブランドもあるかもしれません。

1億円の効果感としては、全国放送で流すなら1ヶ月で30%くらいの全国のテレビ視聴者(テレビを持っている世帯)に数回くらいリーチできる計算になるため、一定のインパクトは与えられると考えて良いでしょう。

予算が数億は割けなかったとしても、例えば年末商戦のように、スポット的に認知をあげたい場合には、1回やってみるという選択肢もあります。

テレビCMを継続的にやることになると4~5億円の予算は最低でも必要になってきます。1ヶ月に1億円規模のテレビCMを、2ヶ月に1回1年間、もしくは1ヶ月5,000万円の予算にして12ヶ月流しっぱなしにする、などの計画があります。

どちらにしても、継続的にテレビCMを打ち出すのであれば4〜5億円の予算、スポット的にもしくは継続的にテレビCMをやるに向けて1度テストをしたい場合は、最低でも1ヶ月1億円くらいの予算を見ておく必要があると思います。

 

―エリアテレビCMの予算はエリアごとに異なるのでしょうか

はい、異なります。

場所によりますが、基本的には人口と連動するので、主要都市の東京や大阪では一気に値段が上がります。

地方のテレビCMで使われる福岡などでは、全国放送の5~10%程度に抑えられます。

全国で1億の放送を、福岡でだけ流すならば500万円-1,000万円程度で、実施可能です。

人口ごとに比例係数を見て行くと、だいたいの算段はつけられるかなと思います。

 

―ベンチャー企業が年間1~2億の予算でもCMに挑戦しても良いのでしょうか?

はい。

デジタル広告で成長してきた事業者はどこかのタイミングで頭打ちになるときがきます。

toB商材であればテレビだけでなく、タクシー、新聞なども広告を届けられる媒体になっています。

toC商材だと、CPMを考慮すると、リーチを伸ばすためのメディアは、現状テレビ一択です。

なぜなら若い層や主婦層には新聞やタクシーでは伝えられない場合が多いですし、交通広告や雑誌などはCPMが割高になる傾向が強いからです。

ウェブ広告とテレビ広告では視聴者の広告へのスタンスが違うため、デジタル広告だけで認知を獲得することは難しくなっていきます。

予算を投下してもデジタルの獲得効率が悪くなっていくのが実情です。

年間予算数千万円規模のうちだとデジタルのみのマーケティング活動による獲得効率が悪くなることはあまり実感できないかもしれませんが、年間で2億円を超えたあたりから獲得効率が徐々に悪くなっていくことを実感されるでしょう。

1年目,2年目で順調に規模感が上がってきたベンチャー企業でも、ひと昔前までなら年商10億円くらいまでデジタルだけでも上がっていくことができましたが、現在では年商5億円くらいでデジタルが合わなくなることが多いです。

そうなればテレビCMなどへの挑戦が必要になるでしょう。

ただし、テレビへの制作やメディア戦略は非常に時間と労力を要するので、代理店に任せるスタンスではなく経営陣からのコミットメントが必要になってくると思います。

また、テレビとの相性が良いカテゴリーかどうかも事前に第三者的な意見をしっかりととったほうが良いと思います。

代理店に丸投げしないことが成功への鍵

―テレビのCM制作費について教えてください。

制作費のコストの内容としては、スタッフの人件費、タレントとの契約費、スタジオ等場所の確保費用が大半を占め、加えて製作陣や広告代理店のフィーが発生します。

タレントとの契約は、大物タレントであれば年間1億円以上の契約費用がかかることもありますし、ほとんどの人が知っているタレントであればどれだけ安くても年間1,000万円以上はかかると思っていただいた方が良いです。

タレントを起用しないCMも当然できますが、タレント契約費以外の制作費はかかるため、地方でのテスト用テレビCMでも数百万円の予算はかかっています。

YouTube広告をはじめとするデジタル広告との違いは、製作に関わる人数が圧倒的に違うことが大きいです。

テレビCMではセットや細部にもこだわる必要があるためコストが高くなります。

全国放送で埋もれないテレビCMならば安くても1,000万円、大手の会社であれば3,000〜4,000万円はかかっていると考えられます。

テレビCMは競合もクオリティが高いものが多いため、YouTube以上にクオリティに気をつける必要があります。

ただし、コストをセービングできる点もあります。

そのため、事業者側がコストセービングと質にこだわりを持って、代理店に全てを丸投げするのではなく製作に一緒に携わり、入り込めるかは、コストを抑えながら良いテレビCMを作る上でのキーになってきます。

丸投げで成功する会社は世の中に1社もないでしょう。

私はできるだけ制作のコストのバランスを取って、メディアに投資すべきだと思っています。

映像として、作品として満足のいくものを作っても、顧客にリーチできなければ意味がないからです。

テレビCM制作の流れ

―テレビCMを作るフローを教えてください

まず、なぜテレビCMを作るのかという上流のところから整理する必要があります。

私への依頼もこの相談が最も多いです。

莫大なコストをかけてまでテレビCMに新規参入すべきなのか、コストとリターン、刈り取りに効果的なのか、認知・好意度・会社への信用・パートナーへの寄与などビジネスの側面へのメリットがあるのかどうかしっかり検討しなければなりません。

検討した上でテレビCMに参入することを決定したのであれば、ターゲットの設定(who)を行います。

このターゲットとは、事業全体のターゲットではなく、テレビCMとしてのターゲティングです。

その後、テレビCMを通じて何を伝えたいのか(What)を決めてから代理店との話し合いが始まります。

どうやって伝えるのか(How)のフェーズは代理店と共同でブリーフィングを進めていきますが、ここのクオリティはWhoとWhatがいかに明確になっているかに大きく左右されます。

 

―良いブリーフィングにするために必要なことはなんですか?

まず、現状のターゲットが行っている行動と、その裏付けにある考えを整理することから始めます。

そして、現状あるその行動をこういう風に変えたい、という行動のゴールを決めます。

現状の行動の裏にある考えがインサイトと呼ばれるものに当たります。

現状なぜ、自分たちの製品やサービスを買っていないのか、知らないのか、興味がないのかをしっかり整理し、どうターゲットの行動を変えたいのかを明確に設定しなければなりません。

広告代理店側ではなく事業者側がやらなければならない仕事ですが代理店に任せっきりになってしまっている会社が多くあります。

ターゲットの行動を目標に向けて変えるためには、変えるためのきっかけ作りと阻害要因の分析・除去(トリガーとバリアの整理)が必要です。

きちんと整理をした上で、トリガーの何かを推すのか、バリアの何かを外すのか、どれをそのテレビCMを通じて伝えたいのかをブリーフィングで話し合うべきでしょう。

 

―調査費用はどれくらいかかりますか?

量的調査と質的調査を組み合わせることをお勧めしているのでその場合についてお話しします。

量的調査による全体像の把握は50~100万円程でできます。

質的調査は、個人的には内製をお勧めしています。

内製とは、自社社員の知り合いの方や、既存のクライアントへのインタビューによるリサーチのことです。

外部に依頼することもできますが、20人くらいへのインタビューで50~200万円のコストがかかります。

―テレビCMは15秒と30秒のものがありますが、それぞれの使い方を教えてください。

リーチ単価が安く、自社のブランド名やシンプルな便益を伝えられるのが15秒のテレビCMです。

より費用対効果の高いリーチを求めるならこちらが良いでしょう。

一方30秒のものは、そのテレビCMでインサイトから便益、RTBなど多くの内容、深い内容を伝えたい場合にはこちらを選択するのが良いでしょう。

説明に時間かかるプロダクトや、ローンチタイミング(初めてテレビCMをやるプロダクト、サービス)ならば、会社のフィロソフィーやそもそもなんの製品なのかも知ってもらえるように30秒の尺を取る会社が多くなっています。

テレビCMの効果を最大化する運用テストとは

―テレビCMの運用テストはどのようにやるのでしょうか?

2つやり方があります。

1つ目は異なるテレビCM素材を別のタイミングで流して、それぞれの自社のウェブサイトへの流入やコンバージョンを、時間を区切って(流した後の5分など)調査する方法です。

デジタル広告と違って即クリックしたりするわけではないので、正確性は少し下がりますが一定の傾向はこれでつかむことができます。

2つ目は電通や博報堂などの大手が使っている方法で、テレビに埋め込まれたタグを使ってユーザーを特定しながら追跡する方法です。

時間差ではなく、テレビに内包するデータと連動して追跡するのでより正確にユーザーの動きを追うことができます。

 

―ABテストのスパンや温度感を教えてください。

テレビCMの効果を判断するには放映から最低でも1ヶ月は見るべきです。

テレビCMはデジタル広告のようにユーザーの行動へ直接的に作用するわけではないため、急激な変化は見られません。

そのため、見ている人口が多いからといって、短期間でジャッジしようとすると外部要因に大きく左右されすぎて正確な判断ができません。

ABテストは1ヶ月くらい見た上で判断する方が正しいと個人的に思っています。

 

―大手の企業ではCM放映後のABテストを実施していないところも多いと聞くのですが、何か理由があるのでしょうか?

少なくとも外資系のマーケティングを意識したメジャーな会社(ユニリーバやP&Gなど)では、放映後ではなく放映前にテストをすることが多いです。

テレビCMは作成するのに莫大なコストがかかるため、放映前にテストをするほうが効率が良いと考えているからです。

実際の撮影を始める前に、ストーリーボードや紙芝居形式のCMを作成し、それをユーザーに見せてテストをして、ユーザーの反応等のスコアを見た上で、調整を加えながら実際に前に進める方法がよく取られています。

 

―CM制作開始から放映まではどのくらいの期間を見込んでおけばいいのでしょうか?

制作の観点でいうと、撮影も込みならば、代理店へのブリーフィングから制作完了まで最低でも3ヶ月は見ておいたほうが良いでしょう。ブリーフィングの作成時間も考えるとさらにかかります。

放映までという観点でも、同じくらい時間がかかります。

きちんと希望を通したいのであれば、実際にクライアントが発注をして、広告代理店がテレビ局などに交渉をするというプロセスに時間を要するため3ヶ月は見ておいたほうが良いです。

制作と交渉を同タイミングでできるかというとそういうわけではありません。

制作が先に始まり、ある程度形になった時点で考査のプロセスが存在するからです。

考査のプロセスでは、そのテレビCMが社会的に問題ないものかどうかや、データの裏付けがあるかなどの審査がテレビ局によって行われます。

審査を通った上で、やっと交渉ができるようになるため、制作と交渉が重なる時期はありますが、テレビを始めようと考えてから放映まで、最短でも4ヶ月は見ておいた安心でしょう。

広告代理店の賢い選び方

―発注する広告代理店はどのように選べばいいのでしょうか?

まず、広告代理店には2種類あり、メディアのバイイングを行う代理店と制作側の代理店があります。

メディアのバイイングを行う代理店は、大手から地方中小までありますが、後々全国放送でやりたいのであれば個人的には大手が良いと考えています。

絶対にここが安い、などと言えるところはないため、複数社に見積もりを取って判断することをお勧めします。

制作側の代理店の選び方は難しいのですが、過去に仕事をしたことがあって信用ができる代理店を選ぶことが多いです。

制作側の代理店の選び方は難しいのですが、過去に仕事をしたことがあって信用ができる代理店を選ぶことが多いです。

そもそも初めての場合は、大前提としてこちらの指定の予算で請け負ってくれるのかというところをきちんと確認しなければなりません。

その上で、過去のその代理店の実績を見て作風が好きかどうか、その代理店の得意なジャンルが何か、どのような雰囲気の作風が得意なのか、などを総合的に見て判断しましょう。

テレビは、制作もメディアも非常に大きな投資になるため、スポットでもテレビの制作の経験がある人からサポートを得ることを強くお勧めします。

 

―メディアバイイングの代理店選びで大手をお勧めするのはなぜですか?

大手を勧める理由は、端的に言えばコストが安く済む可能性が高いからです。

大手の代理店は、たくさんのクライアントとテレビCM枠を抱えているため、スケールメリットがあります。

テレビCM枠には決まった価格はありますが、交渉の余地があり、代理店、テレビ局の営業同士の交渉により価格が決まっていきます。

そのため、信頼や実績がある営業マンの方が安く買える可能性が高く、交渉力の強い営業マンは大手には安定して多く在籍していると認識しています。

テレビCMの「いい枠」を獲得するには?

―月9のCM枠などは、大手代理店しか押さえられないのでしょうか?

どの枠を抑えられるかについては、「タイム」と「スポット」という考え方があります。

タイムという考え方では、その時間帯の枠をまとめて購入します。

テレビCMを出したい大手の企業、例えばテレビの最後にスポンサー名が出るような企業は、月曜21時のこの枠を1年間分まとめて買うといった買い方をします。

そのような買い方であると、絶対に狙った枠を買えますが、初めてテレビCMをする企業では滅多にいないのが事実です。

タイムの考え方としてわかりやすいのは日本テレビで日曜22時から放送されているおしゃれクリップ(前おしゃれイズム)は資生堂による一社提供の番組です。

一方スポットは、一定の予算で、期間や時間を指名して、一番当たりやすい枠を買う、という考え方です。

1週間のカレンダーベースで考えたときに、月曜日から日曜日の全時間帯に放送する全日型、土日と平日の夜に絞って放送する逆L時型など様々な型やフォーマットに沿った買い方が存在します。

その型やフォーマットに沿って、自社製品を宣伝するにおいて一番効率の良い買い方をする方法です。

大手代理店だから抑えられる、小規模代理店だから抑えられないという話ではなく、買い手側の買い方に左右されるところが大きいです。

しかし、実績があるところほど賢い買い方を知っているのも事実です。

 

―初めてだといい枠は押さえられないのでしょうか?

いい枠を買えるかどうかについて、この番組に入れたい、というような希望は代理店にお願いベースになり、基本的には大手に交渉力が強い人がいることが多いです。

代理店によっては、ある分野に強い営業マンがいることもあります。

代理店にお願いする上で、初めてだからいい枠を抑えられない、ということは無いと思いますが、代理店とテレビ局の関係値が交渉に左右することは否定できないと思います。

 

―予算の使い方のノウハウはありますか?

オススメは、単発的に1回ではなく継続的にやっていくことを見越したテレビCMの買い方をすることです。

上述した通り、認知を作っていくプロセスの中に、忘却のプロセスがあることも忘れては行けません。

人のブランドやサービスに対する記憶は最長でも3ヶ月くらいしかもたないため、忘れかけた頃にCMを流すことで思い出させることが、認知を継続的に向上させる上で効果的になります。

例外としては、年に1回しか買わない、一生に1回、あるいは1年の中でこの時期にしか買わない、というようなプロダクトに関しては集中的に時期を狙って単発でやることはもちろんありでしょう。

ふるさと納税や、クリスマス用ギフトなどの年末商戦などが良い例です。一方、世の中のプロダクトのほとんどはこれに当てはまらないため、単発的に認知をあげることを狙っても忘却の壁に阻まれるため、継続的に積み上げた方が質の高い認知が得ることができます。

テレビCMは中長期的な事業成長のための手段にすぎない

―テレビCMを作る上で注意することはありますか?

前提として、事業のフェーズ的にテレビCMを打つことが、自社製品に対する良質な認知につながる確信があること、そしてその先の結果につなげるための準備が会社的に整っていることがいいテレビCMを作るための要素としては欠かせません。

テレビCMを作って放映するという、そこまでのプランで終わるのではなく、その先の未来が描けている状態でやることが大前提です。

 

―テレビCMの打ち方において大切なことはありますか?

テレビCMをした製品の認知が月ごと、四半期、年間でどんどん積み上がっていくような広告ができているかどうかが重要になります。

行き当たりばったりで広告費用を突っ込み、短期的に認知が上がったとしても、すぐにその認知が下がっては意味がありません。

コツコツと先を見据えて計画的に、少なくとも複数年単位の計画で認知を積み上げていくことが大切です。

正直なところ、失敗している会社さんも多く、そもそも失敗しているのかどうかすら認識していない会社様も世の中には多数あります。

 

―最後にテレビCMを検討している企業にメッセージをお願いします。

テレビCMを打ち出すことで、会社への信頼獲得だったり、認知獲得だったり、コンバージョンまでを段階的に推し進めることができます。

テレビはあなたの会社がエクセレントカンパニーになって行くために大きな役割を果たすメディアチャネルとなるでしょう。

デジタル広告で頭打ちだから手を出す、というより、どの段階で何のためにテレビを使うのかを早い段階で知見のある人と共に検討することが大切です。

また、テレビCMは大きな投資になるため、やると決めたならば会社として一番のリソースを割くべきです。現場や代理店になんとなく丸投げするのではなく、オーナーも一緒になってブリーフィングに参加するべきですし、誰に対して何を、どう表現して届けるのかを、会社全体として本気で考え、取り組むことが大切です。

テレビCMに挑戦することは、ビジネスを爆発的に伸ばすパワーを秘めているものであることはもちろん、ビジネスを中長期的に伸ばすための大きな材料になってくれるでしょう。

テレビCMを中心に売上を伸ばしていくためのマーケティングを得意としておりますのでぜひご相談ください。