BtoBマーケティングでどんなブランドを築くか|成果を分ける施策設計

本記事では、BtoBマーケティングで成果が頭打ちになる構造的な原因、効果を生む上位概念としてのブランディング戦略、ブランディング起点で陥りやすい3つの失敗パターンまでをHubSpotやSalesforceの公開レポートと国内事業会社の支援知見をもとに解説します。
こんな方におすすめの記事です。
- BtoBマーケ施策(SEO・MA・展示会・広告)に投資しているが、リード数や商談数の成長が頭打ちになっている事業会社のマーケ責任者
- 個別施策の最適化ではなく、もう一段上のレベルで成果のドライバーを見直したい経営企画担当者
- ブランドイメージの陳腐化やターゲット変化を感じており、リブランディングを検討中の事業責任者
Brandismはユニリーバ・ロレアルなど外資系消費財メーカーでブランド戦略・マーケティングを担ってきたメンバーが、ブランディング/リブランディング戦略の設計から施策実行までを、飲料・消費財・金融などの幅広い業界・BtoB/BtoCを問わず伴走支援しています。BtoBマーケティングをブランディング起点で見直したい方、リブランディングを検討中の方は、お気軽にご相談ください。
目次
- なぜBtoBマーケで「効果が出ない」のか
- KPIの改善だけではブランドが育たない
- 自社のブランドイメージを測定できていない
- 効果の上位概念|ブランディング戦略が決める「効く施策」と「効かない施策」
- WHO/WHATの言語化|誰に何を約束するか
- チャネル横断の一貫コミュニケーション
- ブランドイメージをそろえてプロダクトを拡張する
- BtoBマーケの主要施策|ブランディング戦略との接続
- リード獲得
- SEO対策
- 展示会
- 新聞広告
- OOH(屋外広告)
- タクシー広告
- TVer広告
- Google広告
- YouTube広告
- ナーチャリング
- メールマーケティングの活用
- セミナーの実施
- ウェビナーの実施
- web接客ツールの活用
- 商談化
- インサイドセールス
- 認知段階でのブランディング活用
- 認知率・想起集合への参入率
- ブランドイメージ指標(属性・感情)
- 投資配分(刈り取り vs 育成)
- ブランディング起点で陥りやすい3つの失敗パターン
- 失敗1|チャネルごとに訴求軸が分散する
- 失敗2|認知率KPIを持たないナーチャリング
- 失敗3|HOW(チャネル)から議論をスタートする
- リブランディングを検討すべきシグナル
- シグナル1|ブランドイメージの陳腐化
- シグナル2|ターゲット顧客の変化
- シグナル3|M&A・統合に伴うブランド刷新
- シグナル4|カテゴリ拡張に伴うブランド再定義
- まとめ
なぜBtoBマーケで「効果が出ない」のか
BtoBマーケで成果が頭打ちになる構造的な原因は、施策(HOW)の最適化に偏り、その施策が効果を生む土台=ブランディング戦略の設計を後回しにしていることです。これは、具体的には次のような形で現れます。
KPIの改善だけではブランドが育たない
施策の数字(CPL/CTR/CVR/MQL→SQL)は読みやすく、改善も短期で測れます。ただし、これらを磨き込んで得られるのはHOW(施策)の最適化による短期的な効果にとどまり、それ自体がブランドを育てるわけではありません。CPA最適化や媒体費効率化は競合も同じ物差しで追っているため、同じKPIを同じように改善しても差はつかず、効果のスケールはチャネル特性が許す範囲で天井を迎えます。
その施策が機能する前提となる「想起されるブランドであること」「比較検討の土俵にあがれていること」は数値化されにくく、KPI設定から漏れがちです。結果、HOW最適化のKPIだけが先行し、差別化の起点となるブランドづくりが後回しになる構造に陥ります。
自社のブランドイメージを測定できていない
BtoBの購買は、社長単独の判断を除けば、稟議プロセスを経て複数社を比較したうえで決まります。そこで問われるのは、比較候補リスト=想起集合に自社が入っているか、入ったうえでどのようなブランドとして見られているか(第一想起されているか、どんな属性で記憶されているか)です。ところが、自社のブランドイメージが顧客の中にどう蓄積されているかを測定できている企業は多くありません。
BtoB市場でも、買い手組織の中でブランドが認知・想起されていることは成果に関係します。Homburg, Klarmann & Schmitt(2010)は、300社超のBtoB企業を対象とした調査から、ブランド認知が市場パフォーマンスを有意に高めることを示しました。ただしその効果は一定ではなく、製品の性質や契約に関わる社員の多様性といった条件によって変化します。だからこそ、単に接触数を増やすだけでなく、比較検討の場にいる意思決定者・関与者に自社がどう認知されているかを測ることが欠かせません。
立ち位置がわかれば、打つべき手も変わります。そもそも認知が低いなら認知率を上げる施策が、比較候補には入るけれど選ばれないなら「選ばれるポイント」を言語化し、それを軸にブランドを築く施策が必要です。自社が比較検討の中でどう見られているかを測ることが、リード獲得施策の前段として欠かせない土台になります。
【参考】Homburg, C., Klarmann, M., & Schmitt, J. (2010). Brand awareness in business markets: When is it related to firm performance? International Journal of Research in Marketing, 27(3), 201–212. https://doi.org/10.1016/j.ijresmar.2010.03.004
効果の上位概念|ブランディング戦略が決める「効く施策」と「効かない施策」
施策の効き目は、ブランディング戦略によって決まります。同じSEO、同じウェビナー、同じ広告でも、「誰にどのようなブランドイメージを持たせたいか」が言語化されているかどうかで、コンバージョン率は大きく変わります。
本章では、施策効果に直結するブランディング戦略の構成要素を3つ解説します。
WHO/WHATの言語化|誰に何を約束するか
ブランディング戦略の出発点は、誰(WHO)に何(WHAT)を約束するかの定義です。BtoBの場合、WHOは「企業」ではなく「企業内の特定の意思決定者・担当者」まで具体化する必要があります。同じ製造業の調達担当でも、年商10億円規模と100億円規模では悩みが大きく違います。
WHATは「機能」ではなく「相手の業務文脈で意味を持つ価値」として記述します。例えば「営業支援ツール」ではなく「商談記録の入力に1日30分かかっている若手営業を直行直帰可能にするツール」のように、相手の業務シーンに紐づく形に翻訳します。この翻訳作業がブランディング戦略の最初の中核であり、ここを飛ばしてチャネル選定(HOW)に進むと、施策ごとに訴求がブレる原因になります。
なお、BtoBではN1インタビュー(特定の意思決定者1名への深堀りインタビュー)が、WHO/WHATの言語化に非常に有効です。BtoBは客数がBtoCに比べて圧倒的に少ない分、ペルソナを具体的に描きやすく、稟議をあげるプロセスまで含めて深堀りできる優位性があります。
チャネル横断の一貫コミュニケーション
WHO/WHATが言語化されていれば、チャネル(SEO、リスティング、展示会、ホワイトペーパー、メルマガ等)が変わっても訴求軸はブレません。チャネルごとに訴求を変えると、認知段階で「結局この会社は何屋なのか」が不明瞭になり、想起集合に入る確率を下げる原因になります。
例外は、特定クエリのリスティング広告で競合キーワードLPの訴求を競合差別化に振る場合のみ。基本軸は全チャネルで統一する設計が必要です。担当部署が違うチャネル(例えばWeb広告は社内、新聞広告は代理店)でも、上位のブランディング戦略文書を共通参照する運用が必須になります。
ブランドイメージをそろえてプロダクトを拡張する
ブランディング戦略が強い企業は、プロダクトを広げるときに、ブランドイメージに一貫性を持たせています。逆に言えば、個別プロダクトの訴求を積み上げるだけでは、新しいプロダクトを出すたびにゼロから認知を取り直すことになります。例えばマイクロソフトの場合、PowerPoint や Word を導入している事業者は、Outlook・Teams・Azureなどの個別営業を受ける前から「セキュリティに強そう」「アメリカの大手企業」「稟議が通りやすそう」というブランドイメージを既に持っています。
別プロダクトの営業時にも、このイメージが商談化率・受注率の前提条件として機能します。プロダクトの拡張とブランドの拡張がそろっているほど、新しいプロダクトの立ち上げは速くなります。これはBtoBで強いブランディングを持つ企業の特徴的な競争優位であり、リード獲得施策(HOW)の最適化だけでは到達できない領域です。
プロダクトとブランドを同時に広げた例が味の素です。同社はうま味調味料「味の素®」の製造で培ったアミノ酸関連技術(アミノサイエンス®)を起点に、その副産物から生まれた絶縁材料を半導体パッケージ基板向けの「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」へと展開し、1999年の販売開始以降、高性能パソコンやサーバーのCPU基板向けで世界シェア約95%を握る素材へと育てています。調味料事業で築いた「精密な技術と品質管理に強い会社」という記憶が、食品とはまったく別カテゴリである半導体材料の領域でも「この会社の素材なら信頼できる」という評価として波及した事例です。

【参考】味の素グループ|「アミノサイエンス®から生まれた絶縁フィルム『ABF』ってなに?」(調味料技術の半導体材料への波及)
BtoBマーケの主要施策|ブランディング戦略との接続
ブランディング戦略を起点に、具体的な施策(HOW)を選んでいくフェーズで知っておくべき主要施策を、ファネル段階別に整理します。各施策の効果は、WHO/WHATが定義され、チャネル横断で訴求軸が統一されている前提で、初めて最大化されることを念頭に読み進めてください。
本節では、以下の3つのファネル段階で、主要施策を解説します。
- リード獲得:見込み顧客の連絡先・接触機会を獲得する施策
- ナーチャリング:獲得したリードの購入モチベーションを引き上げる施策
- 商談化:購入モチベーションが上がったリードに営業接点を作る施策
リード獲得
リード獲得は、まだ自社を知らない見込み顧客に出会い、連絡先(メールアドレス・名刺等)や継続接触のチャネルを獲得するための施策です。どの施策を使う場合も、誰(WHO)に何(WHAT)を約束するかが端的に伝わっているかどうかが、獲得の質を左右します。本節では、代表的な8施策を解説します。
SEO対策
Google や Yahoo! などの検索エンジンに調べたい言葉を入れると、検索結果が上から順に並びます。SEO対策とは、この検索結果の上位に自社サイトを表示させて、検索ユーザーの流入を継続的に獲得する施策です。ブランディングの観点では、単に伝えたいことを書くのではなく、より読まれ、なおかつ伝えたいことが明確に届くキーワードにヒットさせる必要があります。
上位に表示されるかどうかで、流入数は大きく変わります。月間100回検索されるキーワードがあった場合、Advanced Web Ranking のクリック率調査(オーガニック検索結果)をもとに計算すると、1位なら約14人、10位なら約1人しかサイトには訪れません(1位のクリック率約14%、10位は約1%)。
【参考】Advanced Web Ranking|Google Organic SERP CTR Curve
展示会
Japan IT Week、HR EXPO、SaaS EXPO のような展示会に出展し、ブースに立ち寄った来場者から名刺や連絡先を取得する施策です。1回の出展で数百〜数千件のリードが一気に集まるため、即効性が高い施策です。
出展後のフォローアップ(電話・メール・商談打診)を回せる体制が前提となります。
ブランディングの観点では、展示会は名刺を集める場であると同時に、自社をどんな会社として記憶してもらうかを設計する場でもあります。SmartHRのグループ会社で従業員向けオンライン相談サービスを提供する株式会社Smart相談室は、「HR EXPO」への出展で、単にリードを取るだけでなく「社員の悩みには、カウンセリング・コーチング・研修といった複数のアプローチを持って対応する必要がある」という前提イメージを来場者に持ってもらう工夫をしています。タレントマネジメントやサーベイの「結果に対する打ち手」として自社を位置づける、認知形成まで踏み込んだ出展設計の一例です。

【参考】Smart相談室|タレントマネジメント、サーベイ結果をサポートするSmart相談室 ーHR EXPOを終えてー
新聞広告
日経新聞・全国紙・経済紙・業界紙に広告を出稿し、認知拡大とブランドイメージ形成を狙う施策です。費用感は媒体・サイズで大きく変わります。
ターゲット精度はWeb広告より低い一方、経営層・意思決定者へのリーチが深く、想起集合への参入を狙う認知獲得チャネルとして引き続き活用されています。
OOH(屋外広告)
駅構内・空港・ビル壁面・電車内などの公共空間に広告を掲出する施策です。Out Of Home の略で、特に交通広告(駅・電車)はビジネスパーソンへの反復接触に効きます。
接触単価はターゲット精度の低さと引き換えに低めに抑えられ、ブランド認知の押し上げに使われる施策です。
OOHは一瞬で通り過ぎる接触のため、サービスの細かな内容よりも「何を記憶に残すか」の設計が勝負になります。求人配信プラットフォーム「Indeed PLUS」は、2025年に著名タレントを起用して渋谷の屋外を大規模にジャックし、「この国の採用の常識が変わる」というコピーで展開しました。機能の説明に踏み込むより、「新しさ」「注目すべきもの」として一気に印象づける、OOHらしい端的なブランディングの一例です。

【参考】Indeed PRESS ROOM|「採用は、Indeed PLUS」キャンペーン、7月15日(火)より開始!
【参考】SPACE MEDIA「Indeed PLUS」、タモリさん、宮沢りえさんを起用したビジュアルで渋谷駅や渋谷の屋外をジャック!
タクシー広告
タクシー車内のサイネージで動画広告を配信する施策です。経営者・役員・士業など、タクシーをよく利用する高所得層・意思決定者層への深いリーチが特徴で、近年BtoB商材(SaaS・コンサル・金融)の出稿が増えています。
出稿費用は1週間で数百万円規模から、ターゲット車両の規模に応じて変動します。1人あたりのリーチ単価は他のオフライン広告より高めですが、意思決定者に深く届く点で、客単価の高いBtoB商材と相性が良い施策です。
ブランディングの観点では、決裁権を持つ層に「名前を聞いたことがある」状態をつくれる点に価値があります。BtoBの購買は社内稟議を通って決まるため、稟議の場で決裁権のある方がそのブランドを知っているか知らないかで、通りやすさに大きな差が出てきます。
TVer広告
民放公式テレビ配信サービスTVerに動画広告を配信する施策です。テレビ番組と同等の信頼性を持つ環境で、PC・スマートフォン・タブレット・コネクテッドTV経由でビジネスパーソンに届けられます。
TVerは月間ユニークブラウザ4,460万(2025年12月時点)規模で推移しており、テレビ広告に近いリーチをデジタル接触で実現できる媒体として、BtoBの認知獲得チャネルとしての注目度が上がっています。
TVerは「最後まで観られる・ながら見されにくい」環境という特徴があり、検索やリスティングでは届きにくい潜在層や、価値の説明にやや時間を要するブランドと相性が良い媒体です。例えば会計ソフトのソリマチは、確定申告の商戦期(1〜3月)に向けて「みんなの青色申告」の動画を制作し、検索ではまだ出会えていない層への認知獲得にTVer広告を活用しています。

【参考】アイ・コミュニケーションズ|商戦期に合わせたプロモーションビデオの制作とTVer広告への出稿支援事例
【参考】株式会社TVer|【TVer広告】セルフサーブ用セールスシート_2026 Ver 2.0
Google広告
Googleが提供するリスティング広告(検索連動型)、ディスプレイ広告、YouTube広告等を運用する施策の総称です。検索意図が明確なターゲットに直接届けられる即効性が特徴です。
BtoBキーワードのクリック単価(CPC)は数百円〜数千円のレンジが業界典型値で、競合の多い領域ほど高騰します。SEOで上位獲得が難しいキーワードの補完にも使えます。
YouTube広告
YouTubeを活用した動画施策は、大きく2パターンに分かれます。
- 自社チャンネル運用:専門性訴求と継続接触に強い。長尺動画(10〜30分)でBtoB領域の深掘り解説が視聴される傾向
- タイアップ動画:既存YouTuber・専門家チャンネルとの連携。タレント/専門家のフォロワー資産を活用した認知拡大に強い
BtoBでは、経営層・専門職向けの深掘り解説動画が業界内で拡散される循環が成立しやすく、ブランディング戦略との親和性が高い施策です。1動画あたりの企画・撮影・編集費用は数十万〜数百万円規模が業界典型値です。
YouTube広告で見落とされがちなのは、演出で注意を引くこと以上に、広告そのものが「役に立つ情報」として受け取られるかどうかが効くという点です。Firat(2019)は、YouTubeユーザー420名を対象とした調査で、情報性・娯楽性・トレンド性が広告価値を高め、煩わしさはそれを下げること、そしてその広告価値が購買意向を押し上げることを示しています。YouTube広告は「面白いかどうか」だけで評価されるわけではない、ということです。
【参考】Firat, D. (2019). YouTube advertising value and its effects on purchase intention. Journal of Global Business Insights, 4(2), 141–155. https://doi.org/10.5038/2640-6489.4.2.1097
ナーチャリング
ナーチャリングは、獲得したリードに継続的に情報提供を行い、自社サービスへの関心度・購入モチベーションを高めていく施策です。BtoBの購買は意思決定までに数ヶ月〜1年以上かかるため、関係を切らさず購買タイミングで第一想起される存在になっておくことが重要です。本節では、代表的な4施策を解説します。
メールマーケティングの活用
獲得したリードのメールアドレスに対して、自社サービスの新情報・業界トピック・事例などを継続的に届ける施策です。配信形式は以下の3パターンに分かれます。
- メルマガ:週次・月次など定期的に、最新情報をリスト全員に一斉配信する形式
- ステップメール:「資料ダウンロード」「ウェビナー参加」など特定の起点から、事前に組んだ複数通のメールを順番に自動配信する形式
- MA連動配信:行動データ(メール開封、サイト訪問、資料ダウンロード等)に応じて自動配信を最適化する形式。SATORI・b→dash・HubSpot・Marketo Engage(Adobe)・Account Engagement(旧Pardot/Salesforce)などのMA(マーケティングオートメーション)ツールが代表的
Mailchimpの業界別ベンチマークでは、BtoBメールの平均開封率は約21%、メール内に貼られたリンクのクリック率は約2.6%。リスト1,000件配信で開封約210件、クリック約26件の規模感です。
【参考】Mailchimp(Intuit社)|Email Marketing Benchmarks & Industry Statistics
MAツールは、リードリストが数千件以上ある拡張期以降の企業で投資対効果が出やすい施策です。
セミナーの実施
会場参加型のリアルセミナー(オフラインセミナー)を開催し、既存リード・取引候補先を集めて、自社の専門性や事例を深く伝える施策です。直接対面で意見交換できるため、ナーチャリング段階で関心度を一気に引き上げられる強みがあります。
会場費・運営費を含めた1回あたりの開催費用は数十万〜数百万円規模が業界典型値で、参加者数を数十名規模に絞ることで対話の質が確保しやすくなります。経営層・専門職向けの少人数勉強会形式は、特に商談化前段のナーチャリング施策として効果が高い形式です。
ウェビナーの実施
オンラインセミナーを開催し、既存リードに対して自社の専門性や具体的な事例を伝える施策です。リアルセミナーよりも参加ハードルが低く、地域・移動制約のない設計で広範囲のリードと継続接触できます。質問・チャット・投票を通じて参加者の関心領域や購買フェーズを直接把握できる点も強みです。
ON24社の2025年ベンチマークでは、1ウェビナーあたりの平均参加者数は約229人、ライブ参加が約56%、アーカイブ視聴が約45%とされており、ライブ・アーカイブ両方で接触機会を持てます。
【参考】株式会社ON24|Webinar Benchmarks | Report
web接客ツールの活用
自社サイト訪問者の行動(閲覧ページ、滞在時間、再訪回数等)に応じて、チャットボット・ポップアップ・パーソナライズコンテンツを出し分ける施策です。代表的なツールはKARTE、Zendesk、Chat Plus、Intercomなどです。
訪問段階で対話機会を作ることで、フォーム到達前に離脱する大多数の訪問者からもリード化を狙えます。月間ツール費用は数万〜数十万円規模が業界典型値で、訪問数が月間1万PV以上の拡張期以降に投資対効果が出やすい施策です。
商談化
商談化は、ナーチャリングで購入モチベーションが上がったリードに対して、営業との接点を作り、商談につなげる施策です。本節では、代表的な1施策を解説します。
インサイドセールス
電話・メール・チャットでリードに連絡を取り、「このリードは商談に値するか」を見極めながら、商談予定の設定までを担当する役割です。マーケと営業の橋渡しとして、近年BtoB組織で独立部門化が進んでいます。
スコアリングが閾値を超えたリードへの早期フォローが、商談化率の最大化に直結します。マーケ部門が獲得したリードを営業に渡すだけでなく、リードの温度感を見極めて商談打診の質を担保する役割を担います。
認知段階でのブランディング活用
リード獲得施策の効果は、認知段階で「想起集合に入っているかどうか」に大きく左右されます。リードだけでなく、認知の段階からブランディングを活用するために、認知ファネルの指標を持つ必要があります。
認知率・想起集合への参入率
認知率は「企業名を聞いたことがある」割合、想起集合への参入率は「比較検討の候補リストに自社が含まれる」割合です。後者がBtoBでは特に重要で、想起集合に入っていない企業は稟議プロセスにすら参加できません。目指すゴールは、ターゲット起案者の候補リストに100%入るブランドを築くことです。
測定手法は、定期的なターゲット業界調査(自社調査または外部調査会社経由)。年1〜2回のトラッキングで、競合との相対ポジションを把握するのが目安です。
認知率と想起集合への参入を正面から取りに行ったのがAGC(旧・旭硝子)です。同社は2017年に創立110周年を機に社名を「AGC」へ変更し、有名俳優を起用した「AGCを知ってるかい?」シリーズのテレビCMを展開しました。素材メーカーがテレビCMに投資するのは異例でしたが、大学生やビジネスパーソンに向けて「AGC=素材の会社」という認知を、ユーモラスで記憶に残るクリエイティブによって広げ、まず社名そのものを覚えてもらうことを狙った設計です。短期の刈り取りではなくブランドの長期定着への投資と位置づけられ、取引先や社員の家族からの反響、採用面での効果にもつながったと報告されています。
【参考】広報会議|「旭硝子」から「AGC」へ 社名変更を通じたブランド再構築(AGC 広報・IR部長 玉城和美氏インタビュー)
ブランドイメージ指標(属性・感情)
「どのような企業として認識されているか」を、属性ワードと感情ワードで定量化します。例えば「信頼できる」「専門性が高い」「対応が速い」など、ターゲットが商材選定時に重視する属性ごとに、自社・競合のスコアを比較します。
このイメージ指標は、リード前段階のブランディング投資の効果を直接捕捉できる数少ない指標です。リードファネルの指標が動く前に、こちらが先に動くケースが多く、ブランディング施策の早期効果検知に役立ちます。
投資配分(刈り取り vs 育成)
広告投資の配分を「リード獲得(刈り取り)何%」「ブランドイメージ形成(育成)何%」で設計します。短期成果重視のCPA最適化に偏ると、長期育成(認知ファネル)が痩せ、半年〜1年後のリードパイプラインが細る構造的なリスクがあります。
健全な配分は事業フェーズによりますが、立ち上げ期は刈り取り重視、拡張期以降は育成へのシフトが目安です。最低でも年1回はこの配分を見直し、認知ファネルの指標と連動して調整するのが現実的な運用パターンです。
ブランディング起点で陥りやすい3つの失敗パターン
ブランディング戦略の重要性は理解していても、実装段階で陥る失敗パターンが存在します。
失敗1|チャネルごとに訴求軸が分散する
担当部署が違うために、リスティング広告では価格訴求、新聞広告では実績訴求、展示会ではテクノロジー訴求、というように訴求軸がチャネルごとに分散するケース。投資ロスを生むだけでなく、認知段階で「結局この会社は何が強いのか」が不明瞭になり、想起集合に入る確率を下げます。
対策は、ブランディング戦略の上位文書(誰に何を約束するか)を社内で合意・文書化し、全チャネル担当者が共通参照する状態を作ることです。文書はマーケ部門の中だけでなく、営業・カスタマーサクセス・PRまで含めた全顧客接点で共有されている必要があります。
失敗2|認知率KPIを持たないナーチャリング
ナーチャリングという言葉は浸透していますが、リード獲得後のメール開封率・LP訪問率を追うだけで、認知ファネル(リード化していないターゲット層に対する認知率)をKPIとして持っていない企業が大半です。
結果、リード化したリストの中でだけ最適化が進み、リード以前のターゲット母集団を広げる活動が育たない構造になります。ナーチャリングを「リード後の育成」だけに閉じず、「ターゲット母集団全体の認知率を高める活動」まで含めて再定義する必要があります。
失敗3|HOW(チャネル)から議論をスタートする
「展示会に出るべきか」「MAを入れるべきか」というチャネル単位の議論からスタートすると、上位のWHO/WHATが定まっていない状態で投資判断をすることになります。結果、チャネルごとの選択肢比較に消耗し、効果の出ない組み合わせを試行し続けるパターンに陥ります。
対策は、施策議論の前に必ずブランディング戦略のレビュー(WHO/WHATの再定義の必要性チェック)を入れる運用ルール化です。年次予算策定時や四半期レビュー時など、節目で必ず通る運用フックを設けるのが現実的です。
リブランディングを検討すべきシグナル
リブランディングを検討すべき4つのシグナルを示します。当てはまるシグナルが2つ以上ある場合は、ブランディング戦略の全面的な見直しを推奨します。
シグナル1|ブランドイメージの陳腐化
数年間ブランドメッセージを変えていない、視覚デザインが古い、競合の新規参入で「古い印象」が強くなった、などのシグナル。ターゲット世代の入れ替わり(新世代の意思決定者の台頭)と連動して発生します。
定量的には、ブランドイメージ調査で「先進的」「革新的」のスコアが競合より下がっているか、自社の指名検索数が減少傾向にあるか、などで検知できます。
シグナル2|ターゲット顧客の変化
主要顧客層が中堅企業から大手企業へ、または逆方向へシフトしている。業界構造の変化(DX化、規制変化)により、これまでの顧客課題が変わっている、などのシグナル。
既存ブランドのメッセージが新しいターゲットの言葉と乖離していると、認知段階で「自分向けではない」と判断されて想起集合から外れる原因になります。
シグナル3|M&A・統合に伴うブランド刷新
吸収合併や事業統合により、複数ブランドが社内に並列する状態の整理が必要なケース。統合ブランドとして再定義しないと、社内外のメッセージが分散し、両ブランドの認知資産が活かしきれません。
統合のタイミングは、リブランディングを構造的に進められる稀有な機会です。日常運用の中での段階的なブランド変更よりも、統合という節目を活用する方が社内外への浸透速度が速くなります。
シグナル4|カテゴリ拡張に伴うブランド再定義
主力プロダクトのカテゴリ拡張(例:SaaS単体からプラットフォーム提供へ)に伴い、既存のブランド定義が新カテゴリで機能しなくなるケース。プロダクト訴求のレイヤーとは別に、企業ブランドのレイヤーで再定義が必要になります。
新カテゴリへの拡張時は、既存顧客の信頼資産を活かしながら、新カテゴリでの専門性を訴求する二段構えのブランディング設計が必要になります。
カテゴリ拡張に伴うブランド再定義で広く知られるのがトヨタです。同社は2018年のCESで豊田章男社長(当時)が「自動車をつくる会社」から「モビリティ・カンパニー」への変革を宣言し、その後現体制でも「カーボンニュートラル」と「移動価値の拡張」を2本柱とする「トヨタモビリティコンセプト」へと進化させています。クルマという既存カテゴリ訴求のレイヤーを残しながら、その上位に「電動化・知能化・多様化を通じた移動価値」を担うブランドレイヤーを新設する形で、既存顧客・取引先・株主・求職者に対して「いま何の会社か」を再定義した事例です。「もっといいクルマをつくろうよ」を一丁目一番地として残しつつ、「クルマの未来を変えていこう」をモビリティ・カンパニーのテーマに据える二段構えの構成は、本セクションで述べた「既存顧客の信頼資産を活かしながら、新カテゴリの専門性を訴求する二段構えのブランディング設計」と一致します。
【参考】トヨタイムズ|モビリティ・カンパニーへの変革加速 佐藤社長が語るトヨタの未来
まとめ
本記事では、BtoBマーケで効果が出ない構造的な原因と、ブランディング戦略を起点とした打ち手設計の枠組みを解説しました。重要なポイントは次の3点です。
- BtoBマーケの効果はHOW(個別施策)の最適化ではなく、WHO/WHATの言語化とチャネル横断の一貫コミュニケーションを軸にしたブランディング戦略から逆算する
- リード獲得施策の効果は認知段階で「想起集合に入っているか」に大きく左右される。認知率/想起集合参入率/ブランドイメージ指標を、リードファネルの指標と同時に追う設計が必要
- ブランドイメージの陳腐化、ターゲット変化、M&A・カテゴリ拡張などのシグナルが現れた場合は、リブランディング戦略の再設計を検討する
本記事で扱った「BtoBマーケの効果設計」は、本質的にはブランディング/リブランディング戦略の一部です。Brandismは、ブランディング戦略の設計から施策実行までを一気通貫で支援しています。ユニリーバ・ロレアルなど外資系消費財メーカーでブランド戦略・マーケティングを担ってきたメンバーが、飲料・消費財・金融などの幅広い業界・BtoB/BtoCを問わず伴走しています。
「個別施策の前にブランド戦略から見直したい」「リブランディングをすべきタイミングが判断できない」「BtoBでもブランディングが必要なのかわからない」など、BtoBマーケティングをブランディング起点で見直したい方は、お気軽にお問い合わせください。
監修者情報
松元 貴志
株式会社Brandism EC/デジタル責任者
新卒でユニリーバ・ジャパンに入社後、ヘアケアのブランドのマーケティングを担当。人材関連会社を創業後、短期間で事業成長し全株式を売却。その後D2C関連会社を創業し、D2C事業の売却を経験。株式会社Brandismでは、EC領域やデジタルマーケティングを中心に多くの企業を支援。







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